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19章 エネルギー資源とバイオマスへの転換
8.バイオ電池
【解説】
クリーンなエネルギー供給システムの開発で、白金触媒を用いた、いわゆる水素−酸素燃料電池は、(H2生成過程にもよりますが)環境問題やCO2問題を軽減できるとされています。しかし現実的には、触媒である白金の埋蔵量の限界・枯渇問題とともに、作動時の白金の溶解・再析出の問題も浮上しています。また、電極反応が完全ではなく、副生成物による電池の損傷も報告もされています。そのため、次世代を見据えた新規な概念に基づく触媒系や電池系(エネルギー変換系)の開発が強く望まれています。
化学エネルギーを電気エネルギーに変換する電池系は、原理上、適切な触媒さえあればどのような還元剤と酸化剤を組み合わせてもかまいません。一方、地球上の酸化還元反応(元素サイクル)のほとんどは生体触媒が関与しています。そこで、生体系に見習ったエネルギー変換システムを構築するという考え方が生まれます。
生物は、還元剤としての食物を摂取し、(呼吸の場合には)その電子を最終的には酸素に渡します(硝酸イオンや硫酸イオンに渡す場合もあります。アルコール発酵や乳酸発酵ではピルビン酸に渡します)。こうした酸化還元反応で生まれるエネルギーを利用して、ADP(アデノシン二リン酸)とリン酸との間にリン酸無水結合を形成し、ATP(アデノシン三リン酸)を生成します。ATPは生物のエネルギー運搬体として機能し、生命活動に必要なエネルギーは、すべてこのATPの加水分解によって生まれるエネルギーにより供給されます。
食物と酸素の酸化還元反応で移動する電子を、電極を介して流れるようにすれば、ATPとしての化学エネルギーではなく、電気エネルギーが得られるはずです。ただし、食物から電極、あるいは電極から酸素への電子移動は大変起こりにくい。そのため、触媒として酵素あるいは微生物を用います。これがバイオ電池の原理です。つまり酸化還元酵素の電子授受の基質の一方を電極に置き換えているのです。
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