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9章 遺伝子組換え
7.細胞レベルの遺伝と個体レベルの遺伝
【解説】
上半分の図はセントラルドグマを書いたもので、1組のDNAが複製され、それぞれがRNAを通して遺伝子発現し、細胞機能が発揮されます。分裂した2つの細胞が同じ性質を示すのは、DNAの複製と遺伝子発現が正確だからです。これが細胞の遺伝です。
これに対して動物では、受精卵が細胞分裂し、発生、分化、成長して身体が出来ます。その過程では身体の内外の環境とたくさんの相互作用もあり、それらの結果として成体ができあがります。一方、そういう体細胞の系列とは別に、分化のごく初期に一部の細胞が生殖細胞として保存されます。そこから卵や精子という配偶子ができ、これらが受精して次の世代を作ります。つまり、親子が似るのは、生殖細胞が親子で伝わるだけでなく、1つの受精卵から親の身体が発達して完成し、また子の身体が発達して完成し、その結果同士が似ているという意味です。これが個体の遺伝であって、2つの細胞が似ているという細胞の遺伝とは意味が違い、発生プログラムまですべてよく似て発達する必要があります。
ただし、細胞の遺伝も個体の遺伝も、情報の展開(横方向)と再生産(縦方向)という似たパターンからなっています。ではこの2種類の遺伝の関係はどうなっているのでしょうか? 発生・分化・成長のすべての段階で幾度と繰り返される1つひとつの細胞分裂が、細胞の遺伝に相当します。細胞の遺伝はDNAで直接説明できますが、個体の遺伝はどうでしょうか? 確かにメンデルが記録したエンドウ豆のしわは、DNAで決まっています。しかし、「豆の皮で遺伝子発現しているそのDNA」が子孫に伝わって発現するわけではありません。子孫に伝わるのは、遺伝子発現しなかった生殖細胞の中のDNAです。
細菌や酵母のような単細胞生物では1細胞が1個体ですから、細胞の遺伝と個体の遺伝は同じ意味です。しかし、動物や植物のような多細胞生物では細胞と個体は別で、DNAと直結した細胞の遺伝現象と、発生・分化を経た世代間の遺伝現象は区別する必要があります。
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