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5章 物質の代謝
12.植物の二次代謝物とその生合成経路
【解説】
わたしたちの生活を考える上で植物は、衣食住のいずれにも必要不可欠ですが、同時にわたしたちのくらしを豊かにするものでもあります。とくに、植物がつくり出すさまざまな低分子有機化合物は、香辛料、色素、香料、医薬品などとして欠くことのできないものとなっています。これらの化合物は、植物の生存に直接必要ではない二次代謝産物ですが、最近の研究から、植物の老廃物というよりもむしろ植物の環境応答に役立っていることがわかってきました。
植物の二次代謝は、その生合成系、あるいは化合物の特性から、イソプレノイド系(テルペノイド)、アルカロイド系、フェニルプロパノイド系に分類されており、それぞれ、約 25,000 種、約12,000 種、約 8,000 種の二次代謝物の存在が明らかになっています。これらの生合成系は独立したものではなく、相互に入り組んでいます。
●テルペノイド
C5(炭素数5の化合物)のユニットのイソプレンから生合成される化合物で、ステロイド、トリテルペン、カロチノイド、ジテルペンなどがこれに当たります。とくに、C10のモノテルペンは香料として多用されています。モノテルペンは、表皮の細胞が分化してできる特殊な細胞で生合成・蓄積されることが多く、この精油腺が壊れることで、香りが感じられることがわかってきました。テルペンはこれまでメバロン酸から生合成されると考えられてきましたが、微生物や植物ではメバロン酸以外にも、非メバロン酸経路によって生合成されることが、最近明らかになってきました。これらの経路から、二次代謝物だけでなく種々の植物ホルモンなども生合成されます。
●アルカロイド
植物性塩基とも呼ばれ、窒素を含む一群の化合物です。生理活性の高い化合物が多く、古くから毒薬として用いられていたものもあります。アルカロイドは医薬品として用いられるものが多いのが特徴です。ほかにも、お茶に含まれるカフェインなど、生活に不可欠なものもあります。アルカロイドの生理作用はまだ十分に解明されていませんが、アルカロイドを含まないルピンは食害を受けやすいことが知られています。
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