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9章 遺伝子組換え

9.遺伝子導入法
【解説】
 遺伝子組換え技術が注目されるのはその応用面での威力が大きいからです。それは、生物に計画的に遺伝子を導入して発現させたり、特定の遺伝子を抑えたりすることで達成されます。遺伝子をクローニングするもとの生物を供与体、遺伝子を導入する先の生物を宿主と呼びますが、遺伝子導入する宿主が、もとの供与体生物と同じ場合も、異なる場合もあります。

(1)貴重なタンパク質を安価に高純度に生産したり、新しい作用の酵素を作ったりなど、遺伝子産物(タンパク質)に価値のある場合は、大腸菌や酵母などの扱いやすい生物を宿主にして、タンパク質を大量生産することが多い。そのためのいろいろな発現用ベクターが開発されています。これに対し、ある生物の性質を変えることが目的である場合には、その生物に、遺伝子を導入する必要があります。

(2)植物への遺伝子導入では、DNAをまぶした微小な金属弾丸を植物細胞に撃ち込んだり、あるいはアグロバクテリウムという細菌の性質を利用して植物細胞にDNAを入れたりすると、ある確率で外来遺伝子を植物のゲノムに挿入することができます。遺伝子を導入した葉などの組織は、いったん脱分化状態(不定胚)を経て植物体にまで再分化させます。こうして得られた植物体では一般に、外来遺伝子を持つ細胞群と持たない細胞群とが混在した状態になっているので、選抜や交雑を経て、外来遺伝子を生殖系列にもつ(種子で伝わる)トランスジェニック植物を確立します。
 これとは別に、植物組織をいったん1つひとつの細胞にまでばらして(プロトプラスト)、これに外来遺伝子を導入し、それから植物体を再生させる方法もあります。

(3)哺乳動物で遺伝子導入が行われるのは、マウスなど一部の動物に限られていますが、家畜の遺伝子導入でも原理は同様です。マウスでは、細いガラス針を使って受精卵の核に外来DNAを注入し、これを、偽妊娠させた代理母マウスの子宮に移植して出産させます。生まれたマウスで外来遺伝子を持った個体から、選別や交配によって、導入遺伝子が子孫に伝わるトランスジェニックマウスを確立します。
 これとは別に、発生初期の胚から得た、分化全能性を保った胚性幹細胞(ES細胞)に遺伝子を導入し、これを培養して胚に戻したのち、胚を代理母へ移植してトランスジェニックマウスを作る方法もあります。この場合は、ゲノム上の狙った遺伝子に計画通りの変異を導入することが可能です。

(4)なお、最近は、標的遺伝子と相同性をもつ小さいRNAを細胞導入あるいは細胞内発現させ、標的遺伝子の発現を効率よく抑えることのできる、RNAi(アールエヌエーアイ、RNA干渉)法が、動物でも植物でも一般化してきました。

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