会員のみなさまへ

2023.06.26

第64代日本農芸化学会 会長 西山 真

 2023年5月26日に日本農芸化学会会長として選任されました西山真でございます。会員の皆様に一言ご挨拶を申し上げます。

 「農芸化学」は、比較的身近な生命現象を研究対象として、その背景にある原因や仕組みの解明やユニークな機能の発見を目指すとともに、得られた成果の応用展開を図る、「基礎」と「応用」を両輪として研究を進めることを特徴とする我が国独特な学問分野です。日本農芸化学会は、農芸化学分野の進歩、普及、そして教育の推進を図り、科学、技術、文化の発展に寄与することを目的に、鈴木梅太郎先生を初代会長として1924年に創立されました。来年の2024年には創立から100周年を迎えることになります。この大きな節目の時期に本会の会長をお引き受けすることになり、身の引き締まる思いでおります。その使命と責任の重さを痛感しております。

 化学、生物学、物理学などの各学問分野がそれぞれ発展、成熟し、それらの境界領域の研究が華やかに行われています。また、ここ30年ほどは産学連携と称してアカデミアの知識、技術を民間に活用することを強く推奨する流れがあります。これが本当に新しいかというと、そうではないように私は考えています。そもそも農芸化学は生命現象を化学的に解析することを基本とし、学問自体が「化学」と「生物学」が一体となった学際研究です。また、農芸化学は同学問分野の発足当時から産学連携を強力に推し進め、これまで大きな成果を挙げてきたことは疑いようがありません。つまり、農芸化学は、上記のような現在推奨されていることをこれまで当然のこととして行ってきており、ある意味で他の研究分野の一歩先を革新的、先端的な技術や発想で歩んできたと言えるのではないかと思います。最近では、農芸化学は、自らの基本とする化学と生物学に、物理学や計算科学などを取り入れつつあり、益々農芸化学が得意とする大きな視野を持った多彩な研究を展開する環境が整ってきたのではないかと思っています。我々会員はこのメリットを充分に活かしきるべきだと考えています。

 新型コロナウィルスの感染拡大により、2020年度の福岡大会は中止を余儀なくされ、その後3年間は対面形式での大会開催を見送らざるを得ませんでした。その間、オンライン環境の整備が進み、直近の3年間には、一部ハイブリッドを含めたオンライン形式で開催され、安全な状態で皆様に大会に参加していただくことが出来ました。このように発表を聞く場を提供し、皆様に必要な情報を得ていただくという点では、これらの大会は一定の成果を挙げたように思います。しかしながら、対面での発表や質疑、そして人と人が実際に出会うことを介して醸し出される+αの効果を得ることはやはり今のオンライン形式では難しいとも感じさせられました。上述した通り、農芸化学がmultidisciplinaryな学問領域であり、産学官一体となって常に自らを刺激し合える革新的な存在であり続けたことが、今日の農芸化学への大きな発展につながったものと思います。そのような中で、大会はアカデミアやインダストリーなどから様々なdisciplineを持った人が集まる貴重な場です。多種多様な方向にアンテナを張る雑多な人による直接のコミュニケーションが、新たな発想のもととなったり新たな融合につながったりするきっかけになっていたものと思います。この伝統を活かしつつ、今後は、コロナ禍の副産物として確立したオンラインという強力なコミュニケーションツールの利便性も活用しながら、大会講演会出版等多くの事業を一層充実させていきたいと考えております。

 これまでの100年を礎とし、次の100年に向かって歩みを始めようとする本会において、会員の皆様が農芸化学というユニークな学問領域の革新性やメリットを理解あるいは再認識し、それらをご自身の研究や開発に大いに活用していただけるよう環境整備を行うことを通じて、農芸化学研究が益々社会に貢献できるよう、最大限努力してきたいと思っております。会員の皆様のご支援とご協力を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。

過去の会長の挨拶