会員のみなさまへ

2011.06.01

第58代日本農芸化学会会長:太田 明徳

日本農芸化学会会長:太田明徳

 このたび5月6日の総会において日本農芸化学会会長に選任されました太田でございます。会長就任に当たりまして、会員のみなさまにご挨拶申し上げます。

 1000年に一度という東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故により、本年度の京都大会における総会と講演会等が中止されました。ご自身が、あるいは 身近に被災された方がいらっしゃる会員のみなさまには心よりお見舞いを申し上げます。また、1日も早く回復と復興がなされますことを願っております。本会も何らかの支援を考えておりますが、まずは会費あるいは大会参加費等について、被災されたみなさまに配慮する予定です。

 日本農芸化学会は鈴木梅太郎先生を初代会長として1924年7月に設立されました。今年で87年になります。この間、本会会員の諸先輩の優れた実績によって本会は大きく発展・拡大し、1万2千人余の会員を擁して日本の生命・食糧・環境の研究と開発に関わる最大の学会となっています。磯貝 彰前前会長、清水 昌前会長の、社会的状況を踏まえた優れたご指導の後を受けて会長を務めますことは、まことに光栄でありますが、大きな責務を負うことになりました。

 「農芸化学」という学科名、専攻名が国公立の大学とほとんどの私立の大学から消えて15年ほどになります。この間の模索にも関わらず、我が国で独自に発達した巨大なバイオ・化学産業を支え、化学と生物を縦糸とし、また横糸として織りなすように発展してきた私どもの学術的分野を適切に表す「農芸化学」に替わる魅力ある名称を見出すことはできませんでした。本会の活動を広く社会に、また若い人々に理解していただくことは、一学術団体としての社会的責任を越えて重要なことであります。これまでの執行部が強く推進してきた広報と教育関連の事業を引継ぎ、いっそう努力して行きたいと考えております。

 本会の大きな特徴であり、また強みでありますのは、「農芸化学」に関連する多くの企業が本会を維持会員として支えていただいていることであります。産業と学術との深い交流が新しい学術的成果を産み、新規産業技術として結実することは私どもの理想とするところであります。本会は産と学の交流を支え、推進する役割を今後も果たして行かなければならないと考えます。

 本年は鈴木梅太郎先生がビタミンB1の発見を論文に発表されてから、ちょうど100年にあたります。そこで、東京大学の阿部啓子先生を実行委員長にお願いして、100周年記念祝典を2011年11月25日に東京大学安田講堂にて開催いたします。偉大な先達のご業績を振り返りますことは、高い創造性のある研究と産業技術を生み出してきました「農芸化学」を広く世に理解していただく上で、たいへん良い機会と存じます。多くのみなさまのご参加をお願いいたします。

 今年度から来年度にかけての本会の大きな課題は公益社団法人への移行です。5月6日の総会で新定款案をご承認いただきましたので、今秋早々には内閣府の公益認定等委員会に提出し、来年3月1日の新法人の発足をめざして準備を進めて参ります。公益社団法人への移行に伴い、評議員制度の廃止など、さまざまな変更があります。会員のみなさまのご助力をいただきながら、できる限り円滑に行われますよう努めて参ります。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 ここで公益社団法人へ移行する際の変更点について、いくつか触れたいと思います。
 まず、公益社団法人における新代議員の選出には会員によるWEBを介しての立候補と投票を予定しております。新しい方式に戸惑われる方もいらっしゃると思いますが、簡便でしかも大幅な経費節約となりますので、みなさまのご協力をお願い申し上げます。次に、公益社団法人制度の下では、評議員制度を廃止する必要があります。その影響は各支部の運営にも及ぶことがあるかもしれません。本会の支部は大会の開催をはじめ、多彩な活動によって本会の事業の枢要な部分を担っています。従いまして、新しい執行部におきましても、公益法人制度との調和を図り、支部の活発な活動を最大限支援して参りたいと考えております。また、公益法人化の大きな利点は本会の事業への寄付に対する税制上の優遇措置であります。その活用について、会員のみなさまのお知恵をお借りしたいと存じます。さらに、会員の区分につきましては、新たに高校等の教育機関の先生を対象とする「教育会員」が新設されます。教育会員には、「農芸化学」分野への活き活きとした関心を持つ若者を育む事業へのご支援をお願いしたいと思います。

 本会学会誌「化学と生物」と英文誌「Biosci. Biotechnol. Biochem.」はどちらも本会会員が育ててきた、内容の豊かさ、水準の高さに定評がある学術誌です。また、数年来、執行部はメーリングシステムとWEBによる会員名簿の整備を進めて参りました。会員の発表と交流のために大切なこれら会誌と情報システムについて、いっそうの充実を図りたいと存じます。

 2012年度の大会は再び京都において開催される予定です。2011年度大会の準備と事後処理に大変なエネルギーを費やした上に、再度の開催をお引き受けいただいた関西支部の植田和光先生、加納健司先生をはじめとする大会実行委員会の諸先生の度量と熱意に深い感銘を受けました。心より敬意を表する次第であります。

 リーマンショック以後大きく冷え込んだ経済はこのたびの大震災と原発の事故によってさらに深い傷を負いました。国家予算のかなりの部分が震災復興と事故対策に回され、科学技術関連予算も影響を受けることは必至と思われます。このような厳しい折には予見しようもない困難もあるかもしれません。改めて会員のみなさまのご支持とご協力をお願い申し上げます。