会長より(第62代)
会員のみなさまへ
2020.10.17最終更新
第62代日本農芸化学会 会長 吉田 稔
2019年5月30日の日本農芸化学会総会にて会長として選任されました吉田 稔でございます。この場を借りまして、一言ご挨拶を申し上げます。
日本農芸化学会は、わが国独特の研究分野である「農芸化学」における基礎及び応用研究の進歩・普及、及び同分野の教育の推進を図り、もって科学、技術、文化の発展に寄与することにより人類の福祉の向上に資することを目的としています(定款より)。初代会長である鈴木梅太郎先生以来、本会は95年の歴史を刻み、いよいよ5年後には100周年を迎えようとしています。また7年前には公益法人化を実現し、さらに2017年12月には公益財団法人農芸化学研究奨励会との合併が実現し、名実ともに農学系最大の学会として社会に貢献してきました。こうした本会の大いなる発展は、歴代の会長をはじめとする諸先生方が、その実現に向けて努力された結果であります。心より称賛と感謝の意を表したいと思います。
今期の会長としての責務の第一は、公益化と農芸化学研究奨励会との合併に伴って導入された様々な制度や事業規模の拡大などに対し、本会がきちんと適応していけるような体制作りだと考えています。例えば、かねてより内閣府から、本会の各種事業を立案実施する委員会と本会の運営を管理する理事会の機能を分離するよう求められてきましたが、今期からは各公益事業を担当する理事の役割と委員会の役割をマトリックス型に整理した組織運営を開始いたしました。こうすることで複数の理事が複数の委員会を見ながらアドバイスする体制となり、学会活動の透明性がいっそう高まると期待されます。公益法人化という制度改革の中で、本会の本来あるべき活動が滞ることのないように注意を払いつつ、事業内容を精査して効率的運営に努めることが求められています。その一方で、学会を取り巻く学術界や産業界の環境はダイナミックに変化しています。それに伴って会員の学会への期待や要望も変化していると考えられます。日本農芸化学会の会員データを見ると、全会員数はこの10年間で約2,000人減少しましたが、その約7割は企業所属の正会員でした。このことから、企業所属会員のニーズや期待に応え、農芸化学の基礎研究とバイオ産業との間の架け橋となるための機能を強化する必要を感じます。また、博士課程の学生会員の減少、外国人留学生の増加など、新たな対応を必要とする課題も大きくなりつつあります。
さて、本会は創立以来一貫して「農芸化学」をその名に冠しています。「農芸化学」は農学における生命・食・環境に関わる基礎から応用に至る多様な研究を包含する研究領域として広く認知されてきました。ところが、今から25年ほど前に全国の大学で行われた大学院重点化の際に、多くの大学で「農芸化学」の名が失われてしまった結果、私たちの目指す他に例を見ない研究が、名前の上からは、医学・薬学・生物工学系など他の生命科学分野と区別がつきにくくなってしまいました。そのような中で、学会名としての「農芸化学」が維持されたことによって、その理念とアイデンティティーが保たれてきたといえます。「農芸」の芸(藝)には、もともと木や草の苗を地面に植えると言う意味があり、自然の産物に人間が手を加えることによって新たな価値を創造するということを表しています。また、化学(Chemistry)には、単に学術としての化学だけでなく、親和性、相互作用、融合という意味があります。すなわち、現代の「農芸化学」は、最先端の技術と異なる学理を融合し、新しい価値を生み出す学際的分野を表す名称であると考えています。実際、近年、農芸化学の名前を専攻名として復活させる大学も現れてきました。私たちはこの名前のもつ長い歴史と革新性に誇りを持ち、画期的な研究を行うとともに優れた後進を育てる必要があると考えます。
2019年末に中国で発生し、わが国を含めて全世界に飛び火したCOVID-19の影響で、残念ながら2020年度大会の現地開催は見送らざるを得なくなりました。しかしながら、会員の皆様方の大きなご努力のおかげで農芸化学分野における研究・開発・教育活動は活発に続けられております。本会もウィズコロナの時代に対応した学会活動のあり方を大至急検討し、会員の皆さまのためにより優れた大会、講演会、出版、活動助成、褒賞等の機会とサービスを充実させていきたいと考えております。引き続きご支援ご協力のほど、どうぞよろしくお願いいたします。