第38回さんわかセミナー「持続可能な次世代農業を支える技術~スマート農業から農芸化学的アプローチまで~」
報告
第38回さんわかセミナーを東京大学弥生講堂一条ホールで行いました。“持続可能な次世代農業を支える技術” をメインテーマとして、スマート農業、RNA農薬、イオン輸送体を標的とした植物生長制御といった多様な観点から産学3名の先生方にご講演いただきました。
- 佐々木社長からは、農業用水の枯渇ならびに多施肥が及ぼすリン・窒素による地下水汚染というこれからの農業が直面した資源・環境上の問題認識、そして、これらの課題を解決するためのテクノロジー展開についてご講演いただきました。ルートレック・ネットワークス社では点滴灌水、液肥投入のタイミングと量を徹底監視する「ゼロアグリ」システムを提供しており、トマトやイチゴなどのパイプハウス栽培作物で80%超の減肥と収量増を実現していると伺いました。実はアジアモンスーン地域ではこのようなシステムは普及途上であるうえ、一人の農業従事者が養うべき人口が今後も増え続けなければならず、この点をあわせて我が国農業はブルーオーシャンだと分析されたご説明など大きく啓発を受けるお話を頂戴しました。
- 鈴木先生からは、持続可能な総合的害虫管理体系構築のための次世代農薬について、RNA干渉を活用した農薬の可能性についてご講演いただきました。「ダニとは卵巣と胃袋に足が生えた生き物である」という衝撃的なご紹介から始まり、抵抗性問題が深刻な生物であること、dsRNAを経口摂取させることによる防除が期待できることについてご解説いただき、農薬の新しい未来を感じさせていただきました。一般的にはなかなか親しみを持ちづらい生き物ではございますが、鈴木先生のユーモアのあるご解説により、ご紹介いただいたダニやその他の生物に対し、親しみを持てるようになったと感じた方も多かったようです。
- 魚住先生からは、イオン輸送体とそれを標的とした植物生長制御について概説いただきました。イオン輸送体は生物種を超えた共通性をもち、多くの重要な生物機能を果たしていることのご紹介からはじまり、そのイオン輸送体を標的として植物の気候開閉調節による光合成および水分蒸散量の制御を行った具体的な研究事例についてお話いただきました。また植物イオン輸送体に対して逆の作用を示す2種類の調節剤を使い分けることで、植物活動を狙った方向へコントロールできるという展望もお示し頂きました。お茶に含まれるカテキンが、イオン輸送体を通じて植物生長を抑制することについては、興味を持って聞いていただいた方も多かったようです。さらに新しい農業資材カテゴリーである「バイオスティミュラント」の概念についても、分かりやすくご説明いただきました。
講演後にはパネルディスカッションを企画しました。講師の先生の間で意見が交わされ、職域の枠を越えた相互連携の可能性へと話しが及びました。会場やモデレーターからもそれぞれの技術や知見の用途展開、現場普及への課題、若い方への啓蒙など質問が投げかけられ、盛会のうちに終わりました。様々な技術がつくりだす次世代農業と、そこに農芸化学がどう貢献するかを考えさせるセミナーになったかと思います。
おかげさまをもちまして第34回セミナー以来およそ3年ぶりの対面開催を果たしました。中締め後には来場者間で挨拶を交わす交流時間も設けることができました。ご多忙にも関わらずご講演を快くご承諾いただきました講師の先生方、当日の悪天の中にもご来場くださいました皆様に改めて御礼申し上げます。今後ともさんわか活動へご理解をくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。
さんわか10期 荒川、小泉、中澤、松田、若木
会場風景
概要
タイトル | 「持続可能な次世代農業を支える技術 ~スマート農業から農芸化学的アプローチまで~」 |
---|---|
主催 | 日本農芸化学会 産学官若手交流会(さんわか) |
ポスター | |
開催趣旨 | 日本の農業は、生産者の減少・高齢化、石油高騰、円高など様々な要因を受け、農作業の省力化や生産力向上が求められています。また、SDGsや環境を重視する国内外の動向に加えて、今般の国際情勢による化学肥料・農薬等の高騰や原料資源の枯渇などの要因から、イノベーションによる持続可能な農業生産体系の構築が必要とされています。このような状況から、IoTやAI技術を活用した農業のスマート化や環境負荷低減を目的とした(微)生物機能を活用した肥料・農薬などの研究開発・事業化が進められています。農芸化学の生命・食・環境分野ともおおいに関わりがあり、重要分野の一つと考えております。 そこでこの度は当分野において現在また長年にわたりご活躍の先生方をお招きしたセミナーを企画いたします。農の幅広い課題や取組みへご関心をお持ちの皆様、認識を新たにしたい皆様のご参加をお待ちしております。日本農芸化学会会員ではない方のご参加も歓迎いたします。オンサイト開催ですので、ぜひ本セミナーを機会に研究の幅、交流の輪を広げてみてはいかがでしょうか。 |
日時 | 2022年10月7日(金) 13:30~17:00(予定) |
会場 | 東京大学農学部 弥生講堂 一条ホール (東京都文京区) |
アクセス | <地下鉄> 東大前駅(南北線) 徒歩1分 、 根津駅(千代田線) 徒歩8分 <都バス> 東大(農学部前バス停)下車徒歩1分 http://www.a.u-tokyo.ac.jp/campus/keiro.html |
プログラム | 13:30 開会挨拶 13:40~ 講演1 「農業はブルーオーシャンか?!~Digital farming makes agriculture sustainable~」 佐々木 伸一 氏(株式会社ルートレック・ネットワークス 代表取締役社長) 14:20~ 講演2 「難防除害虫を標的とするRNA農薬の開発に向けて:ハダニRNAiの学理構築と総合的害虫管理の推進」 鈴木 丈詞 氏(東京農工大学大学院農学研究院 准教授) 14:55~ 休憩 15:10~ 講演3 「イオン輸送体を標的とする化合物の探索と生理活性の調節」 魚住 信之 氏(東北大学大学院工学研究科 教授) 15:55~ パネルディスカッションおよび意見交換会 16:30 閉会挨拶 講演者と来場者の交流時間(17:00 閉場) |
参加費 | 無料 |
定員 | 60名 |
参加申込 | 以下の参加申込フォームからお申し込みください。 https://cloud.dynacom.co.jp/form/g/jsbbaoffice/f_48/index.php |
申込締切 | 2022年10月6日(木)15:00 ※締切後事前登録無しでも、当日に残席があれば入場可能です。 |
問い合わせ先 | 日本農芸化学会 産学官若手交流会(さんわか) E-mail (青字「E-mail」の部分をクリックしてください) |