報告

1月18日に開催した本セミナーには、大学・企業・公的研究機関から、140名以上の方にご参加いただき、盛況のうちに閉会いたしました。4人の先生から、「ストレス」というテーマに対して、脳科学・宗教・生理学的指標・腸管免疫・発達科学といった幅広い分野から捉えた講演をして頂きました。各講演後の質疑応答では、聴講者からの質問だけでなく、講演いただい先生同士とも活発な議論が交わされ、本テーマにおける研究・事業としの今後のさらなる展開が期待されるとともに、分野横断研究の重要性を改めて実感するセミナーとなりました。ご多忙中にも関わらずご講演を快くご承諾いただきました講師の先生方、ならびにご参加いただきました多くの皆様に改めて御礼申し上げます。今後とも、さんわか活動にご協力・ご参加いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。

以下、各講演内容について簡単にご報告いたします。

  • 川野先生からは、ストレスをマネジメントするための方法論として「マインドフルネス・瞑想」について、その宗教的・科学的両面からご講演していただきました。効率性やマルチタスクに追われる現代社会において、無意識に脳が行う脳内ネットワークの活動(「デフォルトモード・ネットワーク」)がストレスや疲労の蓄積につながっており、こうした活動を「マインドフルネス・瞑想」によって、意識的に低下させて、ストレスに対処するための様々な効果が得られることを、科学的根拠とともに解説していただきました。講演の最後には、マインドフルネス・瞑想を聴講者の皆様と一緒に実際に行っていただきました。普段、農芸化学の分野でなかなか触れることのないお話ですが、ストレスマネジメントという、多くの人の仕事や生活に関わる話題でもあり、アンケートの結果を見ても興味を持って聞いていただいた方が多かったようです。
     
  • 七里先生からは、ストレスの客観的評価の確立に向けた一連のご研究について、実施した評価方法や実験データ結果とともにご講演いただきました。終夜のデスクワーク負荷による「徹夜による疲労モデル」実験、やマウスを用いた「ストレス性胃潰瘍モデル」実験を通じて、血中の脂質酸化物量の増加がストレスの客観的評価マーカーとして利用できる可能性があることをお示し頂き、ストレスと脂質酸化物増加のメカニズムと生理的意義の最新予測についてもご説明頂きました。ストレスを客観的に評価可能な指標が確立できることは、ストレスおよびストレスに起因する様々な症状の解明や予防に大いに役立つと期待され、今後の研究のますますのご発展と社会実装に期待が広がるご講演でした。
     
  • 新藏先生からは、ストレス源排除に対し人体が備える免疫システムの中から、腸の粘膜組織で引き起こされる自然免疫―獲得免疫間の緻密な共同訓練のしくみについて詳説いただきました。この中で、無数の外来異物と常に接した粘膜における免疫の真価は炎症等の激しさを生じず「静かに」外敵を除く点にあること、訓練の結果に生み出されるIgA分子の標的に対する結合力の強さが粘膜免疫の質を定めることについて、ご自身の研究知見を交えて解説されました。加えて、腸粘膜に住みつく腸内微生物の乱れ(ディスバイオシス)が免疫機能や体の状態と密接に関連する点をはじめ、免疫を日々トレーニングしてIgAを良い状態に育む食や農芸化学へのご期待、免疫のしくみを踏まえたワクチンやマスク活用の具体的意味にも触れられるなど、内なるストレスへ向けた対処・行動にもつながる盛りだくさんの話題をご提供いただきました。 
     
  • 明和先生からは、新しい生活様式やバーチャルコミュニケーションがもたらすストレスについて、認知科学の見地からご講演していただきました。ヒトの発達において、乳児期~25歳頃における「外受容感覚(五感)」、「自己受容感覚(筋骨格系の感覚など)」、「内受容感覚(満腹や尿意などの快不快)」の連合学習(関連づけながら学習していくこと)プロセスが極めて重要な影響を与えていることをご紹介して頂いた上で、急速に普及しつつあるオンラインでのコミュニケーションによるヒトの発達に与える課題・懸念をご説明頂きました。また、乳児期の発達に重要な腸脳相関については、腸内細菌叢・脳機能的ネットワークといった新藏先生や川野先生のご講演内容にも関連した発達研究の紹介もあり、分野横断研究の重要性と可能性を実感できた点も印象的でした。

以上 

概要

タイトル 「ストレス研究の最前線 ~コロナ時代のストレスと向き合うために~ 」
主催 日本農芸化学会 産学官若手交流会(さんわか)
ポスター

さんわか第36回セミナー ポスター(PDF)

開催趣旨

新型コロナウイルスの感染拡大の影響により生活様式や働き方が大きく変化し、今まで以上にストレスや不安・疲れを感じるようになった方も多いと思います。感染拡大がまだ終息の兆しを見せない中で、ストレスを理解し、どう対処していくかを学ぶことは現代人にとって最も重要な課題の一つとなりつつあると言えます。
第36回さんわかセミナーでは、第一線でご活躍されている先生方をお招きしてストレスに関与する研究についてのお話を伺う機会を企画しました。
・ ストレスのマネジメント方法
・ ストレスの客観的評価方法の研究
・ ストレスと腸内環境との関係
・ オンラインコミュニケーションにおけるストレス原因の科学的な解明
といった幅広い分野からストレスを捉えて、学べるセミナーとなっているかと存じます。皆様の心身の健康の一助となることはもちろん、研究や事業開発のヒントにしていただければ幸いです。参加費は無料で、日本農芸化学会会員ではない方の参加も歓迎しております。ご興味のある皆様方のご参加をお待ちしております。

日時 2021年1月18日(月) 
13:30~16:30
開催方法 Zoomウェビナー配信
プログラム

13:30 開会の挨拶

13:35~14:15
「ストレスケアのためのマインドフルネス」
川野 泰周 氏(精神科・心療内科医 / 臨済宗建長寺派林香寺住職)

14:20~15:00
「ストレスによる脂質酸化酵素の活性化を介して増加する脂質酸化物とその生理的意義」
七里 元督 氏(産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門)

15:05~15:45
「外界との接点として粘膜(腸管)免疫を考える」
新藏 礼子 氏(東京大学 定量生命科学研究所 免疫・感染制御研究分野)

15:50~16:30
「ヒトにとって「密・身体接触」はなぜ必要か ~発達神経科学の観点から~」
明和 政子 氏(京都大学大学院 教育学研究科)

16:35 閉会の挨拶

※各講演タイトルは決まり次第アップ致します。
※各講演、発表30分・質疑10分となります。質疑はZoomのQ&A機能を利用して聴講者から記入いただいた内容を運営スタッフが読み上げる形式を予定しております(変更可能性あり)。

参加費 無料
定員 200名
参加申込 お申込みは下記のリンクからお願いいたします。
https://cloud.dynacom.co.jp/form/g/jsbbaoffice/f_48/index.php
※先着順で定員に達し次第、申込受付を締め切らせていただきますので、お早めにお申し込みください。
※お申込みいただいた個人情報は、参加確認および今後のさんわかセミナーご案内以外の目的には使用いたしません。
※1/14までに申し込みされた方は、1/15にウェビナー参加URLを送付いたします。それ以降に申し込みされた方は当日11:00までに送付する予定です。参加URLリンクが送られてこない場合は、下記問い合わせ先までご連絡ください。
迷惑メールフォルダ等に振り分けられる場合がございますので、フォルダの確認をお願いいたします。
申込締切 2021年1月17日(日)22:00
問い合わせ先 日本農芸化学会 産学官若手交流会(さんわか)
E-mail (青字「E-mail」の部分をクリックしてください)