報告

2019年12月16日、東京大学 弥生講堂アネックス セイホクギャラリーにて、「タンパク質危機に挑む ~代替タンパク質の未来~」と題し、第一線でご活躍されている先生方をお招きして、タンパク質危機とその対応策技術についてお話を伺う機会を企画しました。当日は大学・企業・公的研究機関から、当初の定員を上回る約90名の方にご参加いただき、本テーマに対する関心の高さが伺われました。以下、各講演について簡単にご報告いたします。

  • はじめに、株式会社三井物産戦略研究所の庄司直美先生より、本セミナーの導入として「タンパク質危機」とは何なのか?という説明、およびその危機への対応策となりうる技術全般についてご講演いただきました。対策技術については、畜産や水産養殖の効率向上策、および飼料供給増加にむけた穀物収量向上策、そして肉・鶏・魚以外の代替タンパク技術(植物肉・昆虫利用・培養肉など)についてまで、幅広くご紹介頂きました。一つの技術に頼るのではなく複数の対策技術をポートフォリオとして準備し、危機に対応していく必要があるとお話頂きました。今後に向けた示唆にも富んだ内容で、「タンパク質危機」の全体像をよく理解させてくれる大変貴重なご講演でした。
     
  • 食用昆虫科学研究会の佐伯真二郎先生は、代替タンパクとしての昆虫食という観点で、昆虫の栄養・養殖技術、そして食することに対する利点・課題点について、379種611パターンの昆虫を味見したという、ご自身の体験と合わせて紹介頂きました。先生は現在、昆虫食文化のあるラオスに滞在し、JICA支援の下で昆虫養殖事業の社会実装を含めた栄養改善プログラムを推進しておられます。今回は本セミナーのために一時帰国頂き、昆虫食の「今」と未来に向けた可能性、そして現地住民目線の支援を目指す中で昆虫はどう機能するかについて講演頂きました。講演後の技術交流会の場では、先生にご持参頂いた昆虫スナックを参加者と共に試食しながら、昆虫食の可能性についてディスカッションし大いに盛り上がりました。
     
  • インテグリカルチャー株式会社の川島一公先生には細胞培養技術を用いた食肉生産「培養肉」についてご講演いただきました。一般的な細胞培養においては、培養に必須な有用因子が非常に高価なことから、食肉用として実用化するためにはコストが大きな課題となることが知られています。先生からは、こうした課題解決に向けてインテグリカルチャー社にて開発した、有用因子を培養装置の中で製造することで安価に安定的に細胞培養を継続し、組織の形成を効率的に行うことができるようにしたシステム 「CulNet: Network Culture system」について紹介いただきました。このシステムは、生体内での臓器間相互作用(臓器が出す有用因子が血管を通って他の臓器に届き、影響を与え合う機能)を参考にして培養装置として再構築するというコンセプトに立ったもので、非常に画期的かつチャレンジングな開発内容であり、未来の食文化・素材開発が変わる大きな可能性を感じました。
     
  • ちとせ研究所の中原剣先生にはタンパク質生産シーズとしての「藻類」の可能性についてご講演頂きました。乾燥重量あたりのタンパク質含有量で比較すると、藻類は大豆や肉よりもタンパク質の含有量が高く、しかも圧倒的な省資源で効率的に生産できるという特徴を有していることから、藻類はタンパク質需要の高まりに対する代替タンパク質源を供給できるプレイヤーとなりうる、とご紹介頂きました。ちとせ研究所では、藻類の中でも長い食経験を持つ「スピルリナ」に特に着目しており、その培養技術の蓄積と食利用の市場形成を進めておられ、今年10月には赤道直下のブルネイにおいて生産工場を新設するなど、将来の拡大に向けた着実に布石を打っているという事例をお話しいただきました。ご講演の中でお話された「藻類と人類の歴史を振り返ると、エネルギー危機・食糧問題・CO2削減問題といった人類の抱える大きな問題に直面した際に藻類研究への注目度高まるという」というエピソードが印象的で、タンパク危機に直面する今後においても藻類の存在意義は増していくと感じました。講演後の技術交流会では、先生にご持参頂いた「タベルモ(生スピルリナ)」の試飲会が行われ、無味無臭で他の食品とも組み合わせがしやすい製品特徴を体験することができました。

各講演後の質疑応答、および休憩中・技術交流会においても講演者の先生方との活発な議論が交わされ、ご参加頂いた方々が大変刺激を受けていたご様子で、極めて好評であったと認識しております。本セミナーが皆様の今後の研究活動・業務において一助となれば幸いに存じます。ご多忙中にも関わらずご講演を快くご承諾いただきました講師の先生方、ならびにご参加いただきました多くの皆様に改めて御礼申し上げます。今後とも、さんわか活動にご協力・ご参加いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。

さんわか9期 津田、中澤、高倉

会場風景

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会場風景

概要

タイトル 「タンパク質危機に挑む ~代替タンパク質の未来~」
主催 日本農芸化学会 産学官若手交流会(さんわか)
ポスター

さんわか

さんわか第34回セミナー ポスター(PDF)

開催趣旨

世界人口の増加や新興国の所得水準の向上に伴い、肉や魚といったタンパク質の需要が拡大する一方で、畜産飼料となる穀物の供給が追い付かず、2030年には世界中でタンパク質の供給不足が起こると考えられています。こうした危機に備えて、植物肉・昆虫食・藻類タンパク・培養肉などといった様々な代替タンパク質技術が注目されており、国内外の研究機関やスタートアップ企業では研究開発・事業化が進められています。農芸化学の生命・食・環境分野ともおおいに関わりがあり、これからも伸びてゆく重要分野の一つと考えております。

そこで、第34回さんわかセミナーでは、 「タンパク質危機に挑む ~代替タンパク質の未来~」と題しまして、第一線でご活躍されている先生方をお招きして、タンパク質危機とその対応策技術にお話を伺う機会を企画しました。また、講演終了後には、先生方を囲んで技術交流会も開催します。

講演参加費は無料(技術交流会は有料)。日本農芸化学会会員ではない方の参加も歓迎しておりますので、ご興味のある皆様方のご参加をお待ちしております。なお、技術交流会からの参加も受付けております。ぜひこのセミナーを機会に研究の幅、交流の輪を広げてみてはいかがでしょうか。

日時 2019年12月16日(月)
受付13:00~、セミナー13:30~、技術交流会17:30~
会場 東京大学弥生講堂アネックスセイホクギャラリー
アクセス <地下鉄> 東大前駅(南北線) 徒歩1分 、 根津駅(千代田線) 徒歩8分
<都バス> 東大(農学部前バス停)下車徒歩1分
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/campus/keiro.html
講演者 (株)三井物産戦略研究所 : 庄司直美 氏    (タンパク質危機 全般)
 食用昆虫科学研究会      :佐伯真二郎 氏  (昆虫食)
 Integriculture(株)    :川島一公 氏     (培養肉)
(株)ちとせ研究所         :中原剣 氏        (藻類タンパク)
プログラム

13:00-    受付開始
13:30-    開会

13:35-14:25  タンパク質危機とその対応 ~タンパク質ポートフォリオの構築~
                      株式会社 三井物産戦略研究所 : 庄司直美 氏

14:25-15:15 「今」昆虫食にできること。ラオスの栄養問題と昆虫食文化の相互作用
                      食用昆虫科学研究会 : 佐伯真二郎 氏   

15:15-15:25 <休憩>

15:25-16:15  培養肉を含む細胞農業の未来​
                      インテグリカルチャー株式会社 :川島一公 氏

16:15-17:05    藻を食べる日常へ! 〜次世代タンパク質源としての藻類〜
                       株式会社 ちとせ研究所: 中原剣 氏

17:05- 閉会
17:30- 技術交流会    

要旨集 要旨集(PDF)
パスワードは、参加の皆様へご連絡いたします。
当日会場での紙版要旨集の配布はいたしませんので、ご了承ください。
参加費 セミナー参加費:無料
技術交流会参加費:2,000円、学生500円
定員 80名
(満席となり次第締め切りとなります。当日残席がある場合のみ入場できます。)
参加申込

【セミナー申込締切】12月12日(木)
お申込みは下記のリンクからお願いいたします。技術交流会の参加も事前申込みが必要です。
https://cloud.dynacom.co.jp/form/g/jsbbaoffice/f_28/index.php
※先着順で定員に達し次第、申込受付を締め切らせていただきますので、お早めにお申し込みください。
※お申込みいただいた個人情報は、参加確認および今後のさんわかセミナーご案内以外の目的には使用いたしません。

【技術交流会参加費事前決済締切】
コンビニ決済:12月9日(月)
クレジットカード決済:12月12日(木)
※当日、会場での支払いも可能です。

問い合わせ先 日本農芸化学会 産学官若手交流会(さんわか)
E-mail (青字「E-mail」の部分をクリックしてください)