第31回さんわかセミナー 「難培養・極限環境微生物研究の最前線」
報告
2018年6月21日、京都大学 理学部セミナーハウスにて、第31回さんわかセミナーを開催いたしました。今回のセミナーでは、「難培養・極限環境微生物研究の最前線」と題しまして、第一線でご活躍されている先生方4名をお招きし、ご講演頂きました。当日は、大学・企業・公的研究機関から80名の方にご参加いただき、本テーマに対する関心の高さが伺われました。以下、各講演について簡単にご報告いたします。
- 神戸大学 大澤朗先生からは、食中毒の原因となる細菌の難培養性についてご紹介いただき、病原細菌の難培養性は、研究者が「通常」と考える培養法にとらわれて培養できないだけ、或いは死んでいるのに「生きている」とする研究者の勝手な思い込みによるものであるかも知れないことを、実例を交えながら語っていただきました。また、ヒト腸内環境を模した「腸内細菌叢モデル(Kobe University Human Intestinal Model : KUHIM)」を用いた健康食品成分の機能性と安全性評価系の取り組みを紹介頂き、その中でヒト腸内に常在する腸内細菌の難培養性については、細菌間のCross Feeding(栄養共生)関係を考慮した培養方法を確立できれば、培養可能となりうるとご説明頂きました。
- 理化学研究所 中村龍平先生は、物理化学の観点から深海生命圏に着目し、深海熱水噴出孔を形成する鉱物を介して発生する電気エネルギーによって支えられた「電気合成生命圏」が存在する可能性について、ご紹介頂きました。深海探査映像を交えながら、「チムニー(煙突状の熱水噴出孔)」が燃料電池・熱電変換素子の特徴を持ち、熱勾配を電気エネルギーに変換する機能を有していること、そしてその電気エネルギーが深海生命圏を支えるエネルギーの一つとなっている可能性について電気培養実験結果と合わせてご説明頂きました。
- 京都大学 安藤晃規先生には、土壌微生物群に含まれる難培養性の硝化細菌の可培養化と、その応用展開について紹介頂きました。植物の生育や作物生産における窒素供給の効率化には、土壌中の硝化細菌による硝化反応が重要な役割を果たしているものの、硝化細菌が難培養性であることや、硝化反応の制御が複合微生物系で働いていることから、基礎的な解析や応用展開が難しいことが知られていました。本報告では、土壌中の窒素動態と微生物群の解析を行い、硝化反応微生物群モデルを再構築した研究内容を紹介頂きました。さらに、実際の作物栽培への応用展開を想定し、難培養性の硝化細菌の分離培養についてもご説明頂きました。
- 京都大学 跡見晴幸先生からは、海底火山付近に存在する熱水噴出孔や陸上温泉などの ヒトや動物は住めないような高温環境にいる超好熱菌と呼ばれる微生物の代謝研究について紹介頂きました。超好熱性アーキアThermococcus kodakaraensiのゲノム情報から推定される代謝機能と実際の形質との間の矛盾に着目し、構造的に新規な酵素や新規代謝経路を見出した研究結果を、多くの実例を交えてご説明頂きました。
以上、ヒト腸内・土壌・深海熱水噴出孔など様々な環境に住む、難培養性微生物・極限環境微生物の最新研究とその応用可能性を紹介頂けた素晴らしい講演でした。また、「難培養(培養するのが難しい)」というのは、あくまでヒト目線での観点であり、これらの微生物は他の微生物と共生関係を育みながら、そして、生育環境にフィットした代謝経路・生存戦略を駆使して、地球環境の維持やわたしたちの生活に有効な働きをしていることがよく理解できました。
各講演の質疑応答や講演後の技術交流会におきましても活発な議論が交わされ、参加されたそれぞれの方々が大変刺激を受けていたご様子で、極めて好評でありました。本セミナーが皆様の今後の研究活動・業務において一助となれば幸いに存じます。ご多忙中にも関わらずご講演を快くご承諾いただきました4名の講師の先生方、ならびにご参加いただきました皆様に厚く御礼申し上げます。今後とも、産学官若手交流会さんわかの活動にご協力・ご参加いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。
会場風景
概要
タイトル | 「難培養・極限環境微生物研究の最前線」 |
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主催 | 日本農芸化学会 産学官若手交流会(さんわか) |
ポスター | |
開催趣旨 | 農芸化学分野では古くから、微生物を対象に基礎から応用まで広範な研究が展開されています。しかしながら、研究対象になっている微生物は、培養が比較的容易なものが多く、通常条件では培養できない微生物(難培養微生物)や、生息域が極限環境に限定される微生物(極限環境微生物)については未だ多くのことが解明できていません。近年、分析技術や培養技術の発展により、難培養微生物や極限環境微生物の研究は大きく進展しており、その謎に満ちた生態の解明にとどまらず、特異なタンパク質・酵素の発見やそれらの新しい利用法にまで研究が展開されつつあります。 そこで、第31回さんわかセミナーでは「難培養・極限環境微生物研究の最前線」と題しまして、第一線でご活躍されている先生方をお招きして、お話を伺う機会を企画しました。講演終了後には、先生方を囲んで技術交流会も開催します。日本農芸化学会会員ではない方の参加も歓迎いたします。ご興味のある皆様方のご参加をお待ちしております。なお、技術交流会からの参加も受付けております。ぜひ本セミナーを機会に研究の幅、交流の輪を広げてみてはいかがでしょうか。 |
日時 | 2018年6月21日(木) 受付13:00~、セミナー13:30~、技術交流会17:30~ |
会場 | 京都大学 吉田キャンパス北部構内 理学部セミナーハウス |
アクセス | JR京都駅から 市バス 京都駅前 206系統「東山通 祇園・北大路バスターミナル」行(約35分)→百万遍(→今出川通を東に徒歩10分) 市バス 京都駅前 17系統 「河原町通 四条河原町・銀閣寺」行(約35分)→京大農学部前 http://www.sci.kyoto-u.ac.jp/ja/map.html |
講演者 | 大澤 朗(神戸大学農学研究科 食の安全安心科学センター 教授) 中村 龍平(理化学研究所 環境資源科学研究センター 生体機能触媒研究チーム チームリーダー) 安藤 晃規(京都大学大学院 農学研究科 応用生命科学専攻 助教) 跡見 晴幸(京都大学大学院 工学研究科 合成・生物化学専攻 教授) |
プログラム | 13:00- 受付開始 13:30- 開会 13:35- 『腸内細菌にみる難培養性の実態』 大澤 朗(神戸大学農学研究科 食の安全安心科学センター 教授) 14:25- 『電気生態系:電気を介した微生物と底生動物の相互作用』 中村 龍平(理化学研究所 環境資源科学研究センター 生体機能触媒研究チーム チームリーダー) 15:15- 休憩 15:25- 『難培養性硝化菌の可培養化と応用展開』 安藤 晃規(京都大学大学院 農学研究科 応用生命科学専攻 助教) 16:15- 『超好熱性アーキアの特異な代謝とその利用』 跡見 晴幸(京都大学大学院 工学研究科 合成・生物化学専攻 教授) 17:05- 閉会 17:30- 技術交流会 |
参加費 | セミナー参加費:無料(当日受付可) 技術交流会参加費:3,000円、学生1,000円(事前申し込み制) |
定員 | 100名 (満席となり次第締め切りとなります。当日残席がある場合のみ入場できます。) |
参加申込 | お申込みは下記のURLからお願いいたします。技術交流会の参加も事前申込みが必要です。 https://service.dynacom.jp/form/g/jsbba/f_28/index.php [申込み締切:セミナー参加登録は2018年6月19日(火)、技術交流会は6月13日(水)正午] ※お申込みいただいた個人情報は、参加確認および今後のさんわかセミナーご案内以外の目的には使用いたしません。 |
問い合わせ先 | 日本農芸化学会 産学官若手交流会(さんわか) E-mail(青字「E-mail」の部分をクリックしてください) |