報告

2023年3月15日(水)、日本農芸化学会2023年度大会において、産学官学術交流フォーラムをオンラインにて開催しました。第1部では第3回夢にチャレンジ企画賞のピッチコンテスト及び農芸化学研究企画賞の発表会、第2部では「博士人材の未来ビジョン」と題し、産学官の先生方をお招きしたシンポジウム、第3部では、第3回夢にチャレンジ企画賞の審査結果発表を行いました。全体を通して100名程度と非常に多くの方々にご参加いただきました。フォーラムに参加していただいた皆様にあらためて御礼を申し上げます。

以下、各イベントについて簡単にご報告いたします。

[第一部・第三部 農芸化学研究企画賞発表会]

(1) 第3回夢にチャレンジ企画賞について

若手研究者の育成を目的とした「夢にチャレンジ企画賞」について、第3回目となる本年度は以下の2件を選出し、受賞者によるピッチプレゼンテーションが行われました。

<第3回 夢にチャレンジ企画賞 2件>

  • 味覚・嗅覚を実装した人間拡張による健康長寿社会の実現
    伏見 太希(芝浦工業大院・理工学研究科)
     
  • 海洋環境負荷問題を解決するペプチド含有塗料の開発
    吉本 賢一郎(筑波大学・生命環境学群生物学類)

味覚・嗅覚を実装した人間拡張による健康長寿社会の実現
伏見 太希(芝浦工業大院・理工学研究科)

海洋環境負荷問題を解決するペプチド含有塗料の開発
吉本 賢一郎(筑波大学・生命環境学群生物学類)

いずれのプレゼンテーションも社会課題に対し、ユニークなアイデアで解決策を示されており、非常に興味深いものでした。高齢化や感染症といった社会課題に対し、人間拡張という新しい切り口を提案するとともに、人工舌や人工鼻の開発といった将来のビジョンを示されていました。また、近年マイクロプラスチック等で注目される海洋環境問題ですが、海洋付着生物が我々のCO2排出量に大きな影響を及ぼしていることや、ペプチドに付着防止剤としての用途があることは非常に驚きでした。早期の社会実装に向けてテーマの進捗に期待しています。

審査委員講評:
隠れた社会課題に着眼し、社会実装を見据えた具体的なビジョンを描く姿勢を高く評価します。社会実装に向けてはコスト面に課題はあるが、人脈等を駆使して実現に向けて尽力していただきたいです。

上記2件のピッチプレゼンテーションに対して、審査委員会による審査の結果、優秀賞として以下が選ばれました。

<第3回 夢にチャレンジ企画賞 優秀賞1件>

  • 海洋環境負荷問題を解決するペプチド含有塗料の開発
    吉本 賢一郎(筑波大学・生命環境学群生物学類)

(2) 企画賞について

本年度採択された三つの研究企画賞(第20回農芸化学研究企画賞)に関して受賞者の先生方に講演していただきました。いずれの研究もオリジナリティのある素晴らしい研究企画であり、今後の研究の発展が楽しみなものでした。

  • 翻訳を促進する新生ペプチドの探索とタンパク質生産への産業応用
    加藤 晃代(名古屋大学大学院生命農学研究科)
  • 産業応用を目指した肝臓オルガノイドの新規培養技術開発とヒト肝臓生理機能の解明
    高橋 裕(東京大学大学院農学生命科学研究科)
  • ネコのマタタビ反応の研究から着想した蚊の忌避剤の開発
    西川 俊夫(名古屋大学大学院生命農学研究科)

続いて、第19回農芸化学研究企画賞受賞者による中間報告が行われました。2演題とも昨年から研究が進み、実用化への期待の持てる内容となっていました。

  • タンパク質ビーズ法による人工天然物エキスからの新規タウ分解分子のりの開発
    荒井 緑(慶應義塾大・理工学部)
  • 昆虫エクジステロイド生合成酵素に対する阻害剤に注目した新規殺蚊剤開発に向けた研究
    丹羽 隆介(筑波大・生存ダイナミクス研究センター)

最後に、第18回農芸化学研究企画賞受賞者による最終報告が行われました。いずれの研究も2年間で大きく発展しており、実用化が夢ではないと感じさせられる内容となっていました。

  • 昆虫疑似感染モデルを利用した昆虫寄生菌類分離法の確立と殺虫剤リード化合物の探索
    平田 雅士(北里大院・感染制御科学府)
    野中 健一(北里大・大村智記念研究所・微生物資源研究センター; 申請者)
  • ブタ血液を原料とする酵素製剤の開発と糖尿病治療薬研究への応用
    田上 貴祥(北海道大院・農学研究院)
  • 多剤耐性細菌感染治療に有効な次世代型抗菌薬の開発
    岡島 俊英(大阪大・産業科学研究所)

【第二部 シンポジウム : 農芸化学分野における博士人材の未来ビジョン】

近年、論文数やその引用回数など、研究分野での他国の競争力が飛躍的に向上しています。こうした状況の中で日本が国際競争を勝ち抜くためには、最先端の知を応用・展開できる博士人材が産業界で活躍することが期待されています。しかし、日本での博士課程への進学率・進学者は減少傾向にあり、また、博士人材が活躍している場は限られています。本シンポジウムでは「農芸化学分野における博士人材の未来ビジョン」と題し、産学官各領域からシンポジストをお招きし、博士人材を取り巻く状況と課題、実際に行われている取り組みについてご講演いただきました。博士課程の学生に限らず、多くの参加者にとっても博士人材の現状について再認識する場となりました。

  • 日本の博士人材政策の方向性
    橋爪 淳(文部科学省科学技術・学術政策局人材政策課長)

我が国では科学技術・イノベーションの一翼を担う存在である、博士後期課程に進む学生は減少傾向にあります。そのため、論文シェアや研究環境の観点からも世界のトップ集団から遅れを取っています。こうした背景には経済面や将来のキャリアに対する不安があり、研究に専念できる環境の整備が急務となっています。本講演では博士人材の重要性、博士人材の抱える課題、文部科学省の取り組みについて具体的な事例を用いてご説明いただきました。取り組みの一つとして、生活費や研究費の支給、キャリア開発コンテンツをはじめとする様々な支援を提供する「次世代研究者挑戦的プログラム(SPRING)」についてもご紹介いただきました。参加者からも多くの質問、悩みが寄せられており、深刻な問題であることを改めて認識する機会となりました。(報告、さんわか:矢野)

  • 博士研究者のアカデミア以外のキャリア支援〜約20年のCPPの活動で私が学んだこと〜
    村磯 鼎(合同会社シーピーピー)

博士研究者のキャリア支援に20年携わったご経験と、博士人材のキャリアの描き方についてご講演をいただきました。博士人材に欠けているものは自分自身を語るスキルだという視点から、「人材市場における自分の市場価値を把握すること」や、「夢や目標、成果を相手に合わせて語れるようになること」の重要性をお示しいただきました。博士の方々はもちろんのこと、一企業研究員である私自身も、今後のキャリアを描く上で勇気と希望をいただけたご講演でした。(報告、さんわか:松田)

  • 名古屋大学未来エレクトロニクス創成加速DII協働大学院プログラムにおける卓越博士人材育成
    加藤 剛志(名古屋大学 未来材料・システム研究所)

名古屋大学で実施されている文部科学省・卓越大学院プログラム「未来エレクトロニクス創成加速DII協働大学院プログラム」についてご講演をいただきました。「イノベーションを10年で成し遂げる人材」の育成を目指し、役割の異なる3タイプの卓越人材が協働するカリキュラムが構築されています。

Deployer:革新的プロダクトによる社会価値創出を着想・企画する人材
Innovator:シーズから最終プロダクトを見通し、そこに至る技術課題を解決し、完遂する人材
Investigator:社会課題を理解し、高い洞察力に基づき解決策を提案する独創的な研究人材

そのほか、履修生の声を交えて、プログラムの詳細(海外研修やワークショップ、インターンシップ、経済的・精神的サポート体制)をお示しいただきました。博士後期課程を修了前にもかかわらず、一部の履修生が輝かしい成果をすでに残しており、課程修了後の履修生のさらなる活躍に期待が膨らむご講演でした。(報告、さんわか:宮武)

フォーラムの最後は、日本農芸化学会 松山会長の挨拶にて締め括りとなりました。

ご多忙の折、ご講演を引き受けてくださいましたシンポジストの皆様、発表者の先生方、ならびにご参加いただきました多くの皆様にあらためて御礼申し上げます。今年度は研究企画賞の質疑応答を復活し、非常に多面的な視点での質問、コメントが飛び交い、オンラインにもかかわらず有意義な議論が出来たものと思われます。来年度以降も、本フォーラムが更なる産学官交流の促進に寄与し、農芸化学分野における研究・事業化の発展に帰することを願います。

なお、第10期のさんわかは本フォーラムが最後の活動となりました。これまでご協力いただいた皆様に厚く御礼申し上げます。4月より活動を第11期に引き継ぎ、更なる産学官交流の推進を目指し活動を続けて参ります。今後とも、さんわかの活動にご協力・ご参加いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。(さんわか世話人:小野)

概要

2023年度産学官学術交流フォーラムを下記の要領で開催いたします。

第一部前半は社会貢献の視野、そして自由な発想の具現化を望む学生及びポスドクの活動助成を目的とする「夢にチャレンジ企画賞」の第3回受賞候補者によるピッチプレゼンテーションを行います。

第一部後半は「農芸化学研究企画賞」第20回受賞者の研究企画発表、および第19回受賞者中間報告、第18回受賞者の最終報告を行います。

第二部はシンポジウムを開催します。本年度は「農芸化学分野における博士人材の未来ビジョン」と題し、産学官各領域からシンポジストを招き、産業界や学術界における博士人材の在り方、日本における博士人材の未来ビジョンに関する政策などを伺い、参加者全員で博士人材の将来像について考える場にしたいと考えています。

第三部は第一部のピッチプレゼンテーションに対する審査結果発表を行います。

奮ってご参加いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。

日時 2023年3月15日(水)13:00~17:55予定 (大会2日目)
会場 オンライン(Zoom)
主催 日本農芸化学会「産学官学術交流委員会」
企画 日本農芸化学会「産学官若手交流会(さんわか)」
参加費 無料
ポスター 2023年度産学官学術交流フォーラム ポスター(学会会員向け)
2023年度産学官学術交流フォーラム ポスター(学会会員向け)(PDF)

2023年度産学官学術交流フォーラム ポスター(一般向け)(PDF)
参加登録
からお申し込みください。

大会参加登録者は申込不要です。
受付期限:2023年3月15日(水)午前9:00
申込上限に達した場合は期限を待たず締め切らせていただきます。
プログラム
(予定)

■第一部 前半:夢にチャレンジ企画賞発表会(13:00~13:30)

13:00~13:10 開会の挨拶
阿部 圭一(産学官学術交流委員会委員長、阪大微生物病研究会)

13:10~13:30 第3回 夢にチャレンジ企画賞 ピッチコンテスト2件

  • 味覚・嗅覚を実装した人間拡張による健康長寿社会の実現
    伏見 太希 (芝浦工業大学大学院理工学研究科)

  • 海洋環境負荷問題を解決するペプチド含有塗料の開発
    吉本 賢一郎(筑波大学生命環境学群生物学類)

■第一部 後半:農芸化学研究企画賞発表会(13:30~14:40)

13:30~13:51 第20回企画賞受賞者による研究企画発表

  • (1) 「翻訳を促進する新生ペプチドの探索とタンパク質生産への産業応用」
    加藤 晃代(名古屋大学大学院生命農学研究科)
  • (2) 「産業応用を目指した肝臓オルガノイドの新規培養技術開発とヒト肝臓生理機能の解明」
    高橋 裕(東京大学大学院農学生命科学研究科)
  • (3) 「ネコのマタタビ反応の研究から着想した蚊の忌避剤の開発」
    西川 俊夫(名古屋大学大学院生命農学研究科)
     

13:56~14:10 第19回企画賞受賞者による中間報告

  • (1) 「タンパク質ビーズ法による人工天然物エキスからの新規タウ分解分子のりの開発」
    荒井 緑(慶應義塾大・理工学部)
  • (2) 「昆虫エクジステロイド生合成酵素に対する阻害剤に注目した新規殺蚊剤開発に向けた研究」
    丹羽 隆介(筑波大・生存ダイナミクス研究センター)
     

14:10~14:40 第18回企画賞受賞者による最終報告会

  • (1) 「昆虫疑似感染モデルを利用した昆虫寄生菌類分離法の確立と殺虫剤リード化合物の探索」
    平田 雅士(北里大院・感染制御科学府) 
    野中 健一(北里大・大村智記念研究所・微生物資源研究センター; 申請者)
  • (2) 「ブタ血液を原料とする酵素製剤の開発と糖尿病治療薬研究への応用」
    田上 貴祥(北海道大院・農学研究院)
  • (3) 「多剤耐性細菌感染治療に有効な次世代型抗菌薬の開発」
    岡島 俊英(大阪大・産業科学研究所)
     

(休憩)

■第二部 シンポジウム(15:00~17:25)
「農芸化学分野における博士人材の未来ビジョン」

15:00~15:15 シンポジウム開会挨拶
吉良 郁夫(産学官学術交流委員会副委員長、味の素(株))

  • 15:15~15:55 日本の博士人材政策の方向性
    橋爪 淳(文部科学省 科学技術・学術政策局)
     

(休憩)

  • 16:05~16:45 博士研究者のアカデミア以外のキャリア支援〜約20年のCPPの活動で私が学んだこと〜
    村磯 鼎(合同会社シーピーピー)
  • 16:45~17:25 名古屋大学未来エレクトロニクス創成加速DII協働大学院プログラムにおける卓越博士人材育成
    加藤 剛志(名古屋大学 未来材料・システム研究所)

■第三部 夢にチャレンジ企画賞 審査結果発表(17:35~17:55)

17:35~17:50 第3回 夢にチャレンジ企画賞 審査結果発表

17:50~17:55 閉会の挨拶
松山 旭(日本農芸化学会 会長)

*最新の情報については大会サイトにてご確認をお願いいたします。
https://www.jsbba.or.jp/2023/