2021年度産学官学術交流フォーラム
報告
2021年3月21日(日)、日本農芸化学会2021年度大会において、産学官学術交流フォーラムをオンラインにて開催しました。第1部では農芸化学研究企画賞の発表会、第2部では国内バイオベンチャーの研究トップである先生方を招きしたシンポジウム、第3部では農芸化学研究「夢にチャレンジ企画賞」の審査結果発表を行いました。全体を通して400名程度と非常に多くの方々にご参加頂きました(同時ビューの最大数は150名程度)。フォーラムに参加していただいた皆様に改めて御礼を申し上げます。
以下、各イベントについて簡単にご報告いたします。
[第一部・第三部 農芸化学研究企画賞発表会]
(1) 夢にチャレンジ企画賞について
今年度は、企画賞の一部として新しく「夢にチャレンジ企画賞」が創設され、事前の選考会議を経て、若手研究者により提案された以下の6件の企画の受賞が決定しました。これらの受賞した企画内容について、学会初の試みとしてピッチプレゼンテーションが行われました。
<夢にチャレンジ企画賞 受賞6件>
※映像公開は2022年2月末日で終了しました。
骨形成型オリゴDNAによる骨リモデリング制御の基盤研究
二橋 佑磨(信州大院総医理工)
海産性光合成細菌のクルマエビ養殖における病害抑制・成長促進効果の研究
古賀 碧(崇城大生物生命)
惑星保護方針を満たす宇宙農業を目指した陸棲シアノバクテリアの生活環の人為的な制御研究
木村 駿太(JAXA)
微生物触媒を用いた電気と空気からの持続的物質生産
山田 祥平(東京薬大生命)
トリプトファン誘導体を利用した新規根寄生植物自殺発芽誘導剤の開発
来馬 道生(明治大院農)、鈴木 泰輝(明治大院農)
次世代酵素創生技術“酵素パーツモデリング”によりバイオ産業の創出を加速させる
小塚 康平(静岡県大院)
上記6件のピッチプレゼンに対して、7名の審査委員で構成された審査委員会による審査の結果、第一回夢にチャレンジ企画賞は、得票数が同数となったことから、最優秀賞が以下の2件となりました。
<第一回(2021年度)夢にチャレンジ企画賞 最優秀賞2件>
- 「微生物触媒を用いた電気と空気からの持続的物質生産」
山田 祥平(東京薬科大学 生命科学研究科) - 「次世代酵素創生技術“酵素パーツモデリング”によりバイオ産業の創出を加速させる」
小塚 康平(静岡県立大学大学院)
この2件の最優秀賞は、いずれも今後の発展の可能性、伸びしろがあり、ワクワクする要素を含んでいることで高い評価が得られました。電気エネルギーによる生物生産の研究に関しては、高密度培養、電極素材など、異分野の技術とマッチングを支援することで、大幅な効率化が期待されます。また、酵素のパーツモデリング研究に関しては、農芸化学分野における、in silico研究の活性化にもつながる先端的な取り組みとして評価するとともに、今後、多くの研究データを共有できるプラットフォーム構築を支援すること等を通じて、質の高い設計システム確立につながることが期待されます。
阿部委員長講評:
この夢にチャレンジ企画賞は、若手研究者育成および博士研究者支援を目的として新しく創設されたもので、今回がその第一回目となります。自らの研究テーマの延長として発想した大胆な提案、すなわち「夢を言葉にすること」をきっかけに、それまで以上に多くの皆さまからの支援や協力を導くことが、この夢にチャレンジ企画賞の大きな狙いとなっております。今後1年間、委員会メンバーをはじめ審査いただいた企業関係者の皆様、そしてここに参加いただいているすべての皆様の支援をいただきながら、夢に一歩でも近づけるように活動してもらいたいと思っております。こうした取り組みを通じて、農芸化学に活気あるそしてワクワクする新しい風を吹き込ませて行きたいと願っております。来年度の成果報告においては、我々の予想をはるかに超えた研究の進展や、新たな展開が産まれることを楽しみにしております。
(2) 企画賞について
本年度採択された三つの研究企画賞 (第18回農芸化学研究企画賞) に関して受賞者の先生方に講演していただきました。いずれの、研究もオリジナリティのある素晴らしい研究企画であり、今後の研究の発展が楽しみなものでした。
- 「昆虫疑似感染モデルを利用した昆虫寄生菌類分離法の確立と殺虫剤リード化合物の探索」
野中 健一(北里大学 大村智記念研究所 微生物資源研究センター) - 「ブタ血液を原料とする酵素製剤の開発と糖尿病治療薬研究への応用」
田上 貴祥(北海道大学 大学院農学研究院) - 「多剤耐性細菌感染治療に有効な次世代型抗菌薬の開発」
孫 定国(申請者:岡島俊英 大阪大学産業科学研究所)
続いて、第17回農芸化学研究企画賞受賞者による中間報告が行われました。2演題とも昨年から研究が進み、実用化が期待できる内容となっていました。
- 「ミミズ細胞を用いた全く新しいバイオ医薬品生産宿主の開発」
赤澤 真一(長岡工業高等専門学校 物質工学科) - 「クチナーゼCut190のPET分解能向上による実用化のための基盤及び実証研究」
織田 昌幸(京都府立大学大学院生命環境科学研究科)
最後に、第16回農芸化学研究企画賞受賞者による最終報告が行われました。いずれの研究も2年間で大きく発展しており、これらの研究成果が産業利用される日も近いのではと感じさせる内容でした。
- 「青枯病菌クオラムセンシング機構を標的にしたトマト萎凋病の予防・治療薬の開発」
甲斐 建次(大阪府立大学大学院・生命環境科学研究科) - 「環境調和型プロセスにより脱脂米糠から回収・精製された完全アレルゲンフリータンパク質及び機能性リン化合物の機能性食品原材料としての用途開発・市場導入に関する研究」
渡辺 昌規(山形大学・農学部) - 「微生物の低栄養性に必須なアルデヒド脱水素酵素の工学的利用」
吉田 信行(静岡大学大学院・総合科学技術研究科)
[第二部 シンポジウム:With/Post コロナ時代における、国内バイオベンチャーが描く成長戦略]
新型コロナウイルス感染症の影響により、経済・社会構造の見直しや新たな国際秩序の模索が行われる中で、With/Post コロナ時代を見据えた成長戦略を描くことは、産学官問わず不可欠になってきています。また、先行き不透明なこうした時代だからこそ、研究者自らが新規事業創出の手法や挑戦するマインドを醸成していくことが今まで以上に求められてきています。こうした背景を踏まえ、「With/Post コロナ時代における、国内バイオベンチャーが描く成長戦略」と題しまして、順調な成長を遂げている国内バイオベンチャーの研究トップに携わる先生方を招待し、これまでの道のりと今後のビジョン、さらには、アカデミア、企業、学生といった所属や立場を問わず、研究から事業を興そうとする全ての若手研究者に向けた激励メッセージを語っていただきました。
- 「ユーグレナの研究開発戦略~研究開発テーマを社会に実装させるための思考法~」
株式会社ユーグレナの鈴木執行役員より、研究開発戦略について「バイオマスの5F」モデルにおける「肥料」や「燃料」で実用化した例を交えながらお話いただきました。ついで、株式会社ユーグレナで行われている遺伝子工学研究についてもご紹介いただきました。また、自己分析のフレームワークやロジカルシンキングの思考法について実例を交えてお話いただき、最後には今後の展望についても示していただきました。ウェビナー参加者からの質疑も多数寄せられ、ベンチャー運営に関して苦労された事などもお答えいただきました。(報告、さんわか:若木)
- 「ちとせグループが、事業を営む上で大事にしていること」
株式会社ちとせ研究所の藤田代表取締役から、ちとせ研究所では「現在当たり前に思われがちの技術があっての事業ではなく、こういう社会を作りたいという想いから事業(それに必要な技術)を生み出す」という流れを大切にして、発酵生産事業、細胞事業、藻類事業、農業、地域循環事業、ヘルスケア事業に取り組んでいるとお話していただきました。また、一歩踏み込んでの、「上記流れ(社会→事業)を実践していれば、『死の谷』(開発段階から事業段階への関門)の概念は生まれないし、機能と価値が矛盾した製品も生まれない」、「日本人口の約0.1%である我々研究者・技術者が、科学や技術の価値観で社会に影響を与えることができる」というお話は、我々の心に刺さり、かつ勇気付けられるものでした。(報告、さんわか:岡部)
フォーラムの最後は、日本農芸化学会 松山副会長の挨拶にて締め括りとなりました。
ご多忙の折、ご講演を引き受けてくださいましたシンポジストの皆様、発表者の先生方、ならびにご参加いただきました多くの皆様に改めて御礼申し上げます。今年度のフォーラムは、初めてのオンライン開催や夢にチャレンジ企画賞の創設など新たな挑戦が多くございました。オンラインならではの特徴として海外を含めた遠隔地からの多くのご出席があり、質疑応答も大いに盛り上がったものとなりました。来年度以降も、本フォーラムが更なる産学官交流の促進に寄与し、農芸化学分野における研究・事業化の発展に帰することを願います。
なお、第9期のさんわかは本フォーラムが最後の活動となりました。これまでご協力いただいた皆様に厚く御礼申し上げます。4月より活動を第10期に引き継ぎ、更なる産学官交流の推進を目指し活動を続けて参ります。今後とも、さんわかの活動にご協力・ご参加いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。(さんわか世話人:高倉)
概要
2021年度産学官学術交流フォーラムを下記の要領で開催いたします。
第一部は農芸化学研究企画賞発表会を開催します。第18回受賞者の研究企画発表、第17回受賞者の中間報告、第16回受賞者の最終報告を行います。 第18回農芸化学研究企画賞については、従来の「企画賞」に加えて、社会に貢献できる視野を持った学生及びポスドクを育成することを新たな目的に掲げ、学生及びポスドクの自由な発想を具現化するための助成を目的とした「夢にチャレンジ企画賞」を加えた2本立てで実施する予定です。
第二部はシンポジウムを開催します。本年度は「With/Post コロナ時代における、国内バイオベンチャーが描く成長戦略」と題し、バイオベンチャーの研究トップであるシンポジストから、ご自身の経験をもとに新たな時代に向けて、若手研究者・学生への激励メッセージを語っていただきます。
第三部は第18回農芸化学研究企画賞に対する審査結果の発表を行います。
奮ってご参加いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。
日時 | 2021年3月21日(日)13:00~17:50 (日本農芸化学会2021年度大会4日目) |
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形態 | オンライン形式 |
主催 | 日本農芸化学会「産学官学術交流委員会」 |
企画 | 日本農芸化学会「産学官若手交流会(さんわか)」 |
参加費 | 無料 |
ポスター | 2021年度産学官学術交流フォーラム(PDF) |
プログラム | ■第一部 農芸化学研究企画賞発表会
第18回企画賞 「企画賞」 受領者 研究企画発表(3名)【各 発表5分】13:10~13:15
「夢にチャレンジ企画賞」ピッチコンテスト(6名)【各 発表5分、質疑2分】
第17回企画賞受賞者による中間報告(5分×2題)
第16回企画賞受賞者による最終報告会(10分×3題)
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■第二部 シンポジウム
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■第三部 企画賞審査結果発表
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