第19回 男女共同参画学協会連絡会シンポジウム
第19回男女共同参画学協会連絡会シンポジウム
「女性研究者・技術者を育む土壌を耕し意思決定の場を目指す人材を育成する
~より多くの女性研究者・技術者を意思決定の場へ~」
2021年10月9日(土)10:00~17:00、上記のシンポジウムが、男女共同参画学協会連絡会の主催(幹事団体は日本技術士会)でリモート開催された。内閣府男女共同参画局、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、科学技術振興機構、国立女性教育会館、国立大学協会、日本私立大学連盟、日本経済団体連合会、日刊工業新聞社が後援となり、産学官に亘って広く注目されるイベントである事がうかがえる。実際、300人を超える参加者があり、本学会のダイバーシティ推進委員会からは丸山千登勢氏(福井県立大学)、恩田真紀氏(大阪府立大学)、野尻秀昭(東京大学)が、また事務局から千々松明子事務局長が参加し、合わせて4名の参加であった。
午前の部(10:00~11:30)は、「トップからのメッセージ」というタイトルで、小池百合子東京都知事からのビデオメッセージの後、3名からの講演が行われた。はじめは、大同大学学長の神保睦子氏から「実学主義による女性技術者の育成」という演題で、大学での女子学生増加の取り組みとその過程での問題点をご自身の経験や研究分野の女子学生を巡る状況も交えながら紹介いただいた。続いて、富士通株式会社の執行役員常務で内閣府総合科学技術・イノベーション会議の議員でもある梶原ゆみ子氏から「イノベーションの源泉となるダイバーシティ&インクルージョン」という講演をいただいた。どのような環境が整うと女性が活躍しやすくなるのかについて、富士通での取り組みを紹介いただき、制度面でのカルチャーの変更や働く女性自らの積極的な変化の重要性が語られていた。続く大阪大学名誉教授、日本物理学会会長の田島節子氏の「より多くの女性研究者を上位職に導くために」では、物理分野における世界的アンケート結果とご自身の経験から、家事は女性がやるべき等の社会通念(偏見)の変更の重要性が強調されていた。上位職をどう増やすかについて、問題をお金で解決、制度で解決、社会通念を変えて解決のステップで考える必要があるが、それでも解決しない問題が残るとの話は印象的だった。いずれの講演でも、女性活躍に欠かせない上位職(意思決定できる人材)の増加について、教育、企業、社会の観点で納得させられる提言がなされていた。
お昼の休憩を挟んで、午後の部(13:00~17:45)として、全体会議が行われた。幹事学協会である日本技術士会会長の寺井和宏氏、来賓として内閣府男女共同参画局局長の林伴子氏と文部科学省科学技術・学術政策局長の千原由幸氏からの挨拶に続いて、4つの基調講演が行われた。最初の基調講演は、文部科学省科学技術・学術政策局人材政策課長の斉藤卓也氏から「科学技術・学術分野における女性の活躍促進」という演題で、ダイバーシティ研究環境実現イニシアチブ、日本学術振興会のRPD事業、科学技術振興機構の女子中高生の理系進路選択支援事業について、進捗と課題について紹介いただいた。次の基調講演である経済産業省経済産業政策局経済社会政策室長の川村美穂氏による「より多くの女性の活躍を目指して」では、産業界での女性の活躍促進について日本の現状を企業就業・経営や研究と言う視点でまとめていただいた後に、デジタル分野に興味を持つ若手を増やす施策としての中高生のデジタル関連部活支援や巣ごもりDXステップ講座情報ナビ(デジタルスキルを学ぶ)の紹介、企業のダイバーシティ経営の推進のための施策として新・ダイバーシティ経営企業100選(経済産業大臣表彰)やダイバーシティ経営診断ツールの紹介があった。続く基調講演3では、名古屋大学大学院理学研究科准教授であり、男女共同参画学協会連絡会の提言・要望書ワーキンググループメンバーである佐々木成江氏から、「第6期科学技術・イノベーション基本計画への要望活動から見えた課題」と題して、要望書の内容や取り纏めの過程でのデータ解析で見えた課題について、データを交えて詳細な紹介があった。また、基調講演4では、トルコのコジャエリ大学建築学部教授(元建築学部長)であるネヴニハル・エルドーガン氏から「トルコの大学における女性教員の活躍」と題して、トルコと日本の歴史も振り返りながら、トルコのアカデミアにおける女性参画の現状と所属大学の建築学部での男女共同参画実現の成功例が紹介された。
続いて、「海外の先進事例から見る日本の課題と提言」と題してパネル討論が行われた。まず、海外事例の紹介も兼ねてジェンダーギャップ指数でのランキング上位国から駐日スウェーデン大使、駐日フィンランド大使、米国ハーバード大学建築大学院長からのビデオメッセージの披露があった。その後、元東京都港区長で男女共同参画学協会連絡会理事でもある原田敬美氏をコーディネーターとして、講演もいただいた神保氏、佐々木氏、エルドーガン氏に加え日本技術士会理事で東海大学工学部教授の前田秀一氏を交えてパネル討論が行われた。討論では、日本が抱える課題を各人の立場で指摘した後で、解決のための提言が行われた。中でも、制度を裏打ちする文化や伝統的なやり方を変えていく必要性や、学会も含む各機関におけるダイバーシティやインクルージョンに関する情報公開が必要なことが提言されたのは印象的だった。
最後に、本シンポジウムの内容を簡単にまとめた後に、第20期幹事学会である日本生物物理学会の原田慶恵氏からの挨拶、第5回大規模アンケートについての案内、第19期の幹事学会から岩熊まき氏の挨拶があり、閉幕した。
今回は、二度目のリモート開催ということもあり運営は非常にスムーズで、海外の講演者を含め、概ね良好な環境での講演を楽しむことができた。なお、対面開催の場合、お昼の時間がポスター発表の時間となってきた。本会もポスター発表を行っているが、ポスター展示はWEB掲載の形で2021年10月~2022年9月まで実施され、参加登録者は見ることができる。今回は、ダイバーシティ推進についての話題ではあったが、活力ある組織を作る上で必要な心構えや方法論と言った観点で有用な話題も多く、聞いてみて非常に有用だったという印象を持つことができた。ダイバーシティ推進やインクルーシブな体制作りは一朝一夕には進むものではないが、このようなシンポジウム活動を通して、本会も含めてより良い形になっていくことを願うばかりである。もちろんこのためには、我々自身のマインドの変化が必要であり、考えられる改善を一歩ずつでも進めていくことの重要性を再認識した一日であった。
東京大学
野尻秀昭