2021年度大会を顧みて
日本農芸化学会2021年度大会(実行委員長 桑原重文 東北大学大学院農学研究科教授)は、2021年3月18日(木)から21日(日)までの4日間、大会初日に仙台市内のホテルで現地開催された授賞式・受賞講演を除き、オンラインで開催された。2020年度福岡大会はコロナ禍で中止(大会での発表は成立)となったものの、1年後の仙台大会は現地開催できるものと信じて準備を進めていたが、コロナ禍の収束に至らず、大会史上初のオンライン開催となった。総参加者数は、一昨年の東京大会の4,606名から1,380名減少して3,226名、一般講演数は昨年の福岡大会の1,598件から300件減少して1,298件であった。コロナ禍で実験停止期間があったため研究成果がまとまりにくかったこと、土日を含むオンライン開催であったため企業研究者が参加しにくかったこと、これまで慣れ親しんだ現地開催とは異なる開催形態に対する抵抗感があったことなどが原因ではないかと考えている。
3月18日の大会初日は、延期となっていた2020年度の学会賞等授与式、および2021年度の学会賞等授賞式がホテルメトロポリタン仙台にて午前10時から現地開催された。一部の受賞者はオンラインでの参加となったが、両年度の日本農芸化学会賞、功績賞、技術賞、奨励賞、女性研究者賞等の受賞者36名が出席し、吉田会長から表彰状が授与された。昼食後の午後1時からは、両年度の日本農芸化学会賞、功績賞、技術賞の受賞講演が行われた。出席者は受賞者、関係する理事、授賞選考委員長および数名の大会実行委員に制限され、学会事務局および大会運営会社による厳格な感染症対策が施された結果、一人の感染者も出すことはなかった。授賞式・受賞講演の模様は、大会参加者にライブ配信されるとともに(Zoomウェビナー)、授賞式については一般市民にもライブ配信された(YouTube)。
授賞式・受賞講演会場入口 | 授賞式・受賞講演会場 |
大会2日目は、農芸化学奨励賞、女性研究者賞、若手女性研究者賞、ならびに女性企業研究者賞の受賞講演がライブ配信されるとともに(Zoomウェビナー)、一般講演(1,298演題中、440演題のコアタイム)、大会シンポジウム(25件中、9件)、スポンサードシンポジウム(旧ランチョンセミナー。9件中、4件)、附設展示会(27社、30枠)、農芸化学企業説明会(17社中、15社)、ならびにジュニア農芸化学会(84演題)が開催された。一般講演は、講演要旨の日英併記を義務づけるとともに、大会期間中いつでも視聴できるオンデマンド配信(掲示板での質問応答が可能)と口頭での直接的な質疑応答ができるコアタイム(Zoomブレイクアウトルーム)を併用して実施した。一般講演の開始直後には若干の障害が生じたものの、すぐに適切な対応がなされ、参加者の運営システムへの理解が深まるにつれ、最終日まで概ね円滑に進行した。今大会で新設した、発表と質疑応答の全てを英語で行うEnglish Sessionには43演題の申し込みがあり、大会2日目から4日目まで、それぞれ14演題、15演題、14演題の発表が行われた。発表者の内訳は、外国人39名、日本人4名であった。初の試みということもあり、English Sessionへの来訪者は残念ながら少数に留まり、今後の検討課題として残された。大会シンポジウムは一般講演のコアタイム終了後の午後3時から開催され(Zoomウェビナー)、一般講演との時間帯の重なりを避けたことが功を奏して盛況を呈していた。スポンサードシンポジウムは、例年通り昼食時間(12:00-12:50)に開催された(Zoomウェビナー)。農芸化学に関わる新製品や新技術についての講演と活発な質疑応答が行われ、お弁当がないにも関わらず、相当数の視聴者を集めていた。附設展示会は特設サイトにおいて開催され、製品の資料や動画の提供、口頭での質疑応答など、各社工夫を凝らした企画が実施された。学生と農芸化学関連企業との交流および情報交換の場である農芸化学企業説明会は、各企業が時間枠を設定し、企業の概要説明と活発な質疑応答等が行われた。ジュニア農芸化学会はオンデマンド配信とZoomブレイクアウトルームの併用により実施された。オンライン開催のメリットが発揮され、北は北海道から南は沖縄まで、全国から69校の高校が参加し、84題の研究発表が行われた。厳正な審査の結果、藻類を活用した福島の汚染水処理システムについての発表を行った福島成蹊高等学校に金賞が授与されたほか、銀賞2題、銅賞5題が選ばれた。
2021年度授賞式 | 2021年度日本農芸化学会賞・功績賞受賞者 |
2020年度受賞講演 | 2020年度女性研究者賞等受賞者 |
大会3日目は、一般講演(550演題のコアタイム)、大会シンポジウム(10件)、スポンサードシンポジウム(4件)、附設展示会(2日目と同内容)、農芸化学企業説明会(8社)、ならびに男女共同参画ランチョンシンポジウム(Zoomウェビナー)が開催された。男女共同参画ランチョンシンポジウムでは、女性研究者のキャリアデザインに関する話題が提供され、大学院生を含む女性若手研究者を交えた意見交換が行われた。
大会最終日は、一般講演(308演題のコアタイム)、大会シンポジウム(6件)、スポンサードシンポジウム(1件)、附設展示会(前日までと同内容)、農芸化学企業説明会(2社)に加えて、農芸化学「化学と生物」シンポジウム(Zoomウェビナー)、産学官学術交流フォーラム(ZoomウェビナーとZoomミーティングの併用)、農芸化学Frontiersシンポジウム(Zoomウェビナー)が開催された。大会シンポジウムのうち1件は、「新型コロナウイルスパンデミック下での食糧問題に農芸化学が果たす役割」をテーマとして取り上げ、日本学術会議農芸化学分科会との共催シンポジウムとして、一般市民にも公開された。農芸化学「化学と生物」シンポジウムも日本学術会議農芸化学分科会との共催で実施され、「農芸化学の目から食の役割を考える」と題して、食品科学領域の著名な研究者3名による講演が行われ、一般市民にも公開された。産学官学術交流フォーラムでは農芸化学研究企画賞受賞者による研究企画発表、新企画賞のピッチコンテスト、および過去の企画賞の報告、ならびにバイオベンチャー関連のシンポジウムが開催された。農芸化学Frontiersシンポジウムでは、多様なバックグラウンドを持つ研究者による話題提供とディスカッションが行われ、例年以上の参加者を得て盛況を呈していた。
なお、今大会では、当然ながら懇親会は開催できなかったものの、大会シンポジウムおよび農芸化学Frontiersシンポジウムでは、シンポジウム終了後にSpatialChatによるオンライン懇親会が実施され、対面での開催に劣らぬ活発な交流が行われた。
大会運営の指令本部(学会事務局) |
最後に、例年とは異なるオンラインでの大会開催にも関わらず、これまでと変わらぬご協力・ご支援を賜りました多くの企業の皆様に心より感謝申し上げます。また、農芸化学会大会史上初めてのオンライン開催を何とか乗り切ることができたのは、大会参加者、参加企業、運営会社、大会実行委員会ならびに理事会の円滑な意思疎通を取り持って下さった学会事務局の皆様、ならびに大会運営の具体像を大会実行委員会にご提案下さり、一からの運営マニュアルの作成やオンライン開催に不慣れな大会参加者への的確な対応を行って下さったイベント&コンベンションハウス(ECH)、エー・イー企画、ダイナコムの皆様の奮闘の賜物であり、この場をお借りして深く御礼申し上げます。今回得られたオンライン開催のメリットとデメリットに関する経験が、将来の大会運営に生かされることを願っています。