報告

2019年2月20~22日に沖縄を訪問し、琉球大学にて第33回さんわかセミナーの開催、また、沖縄科学技術大学院大学(OIST)およびバイオベンチャー関連施設の見学を行いましたので、以下にその内容をご報告いたします。

第33回さんわかセミナー

2019年2月21日、琉球大学 50周年記念館にて、第33回さんわかセミナーを開催したしました。今回のセミナーでは、「バイオ産業における産学官の現在と未来in沖縄」と題しまして、沖縄発のバイオベンチャー企業およびベンチャー支援に関わる皆様をお招きし、ご講演頂きました。また、日本農芸化学会やさんわかの活動を知っていただくため、さんわかメンバーによる研究発表も行いました。当日は34名の方にご参加いただき、質疑応答および技術交流会にて活発な意見交換が行われました。国内ベンチャー企業の開業率がトップである沖縄県の取り組みやバイオベンチャーの実情を知ることで、今後のさんわか活動の参考になると共に、産学官交流の重要性を再認識することができました。以下、さんわかメンバーによる発表、および沖縄バイオベンチャーの皆様からの各ご講演について簡単にご報告いたします。

  • さんわか代表の勝山陽平氏(東京大学大学院)より日本農芸化学会およびさんわかの活動について紹介させていただき、その後、さんわかメンバー4名(岸野重信氏(京都大学大学院)、若木学氏(農研機構)、高倉淳氏(味の素株式会社)、常田啓太氏(サッポロホールディングス株式会社))より各々が所属する組織や研究内容を紹介させていただきました。産学官の多様な分野の講演を通して、日本農芸化学会やさんわかについて興味を持っていただく良い機会となりました。
     
  • 岩本竜吾先生(一般社団法人トロピカルテクノプラス)からは、沖縄県が持つ優位性(東アジア主要都市への玄関口に位置付けられるという地理的特性・全国一高い出率・豊かな自然環境など)を活かし、民間主導で自立型経済を発展させていくための国や県の沖縄振興計画について説明して頂きました。特に、沖縄振興計画の一つである健康バイオ企業の事業促進支援の一例として、沖縄健康バイオテクノロジー研究開発センター/沖縄バイオ産業振興センターでの、バイオベンチャーのインキュベーションや産学官連携推進の取り組みをご紹介頂きました。
     
  • 照屋俊明先生(琉球大)からは、シークヮーサーの搾りかすからノビレチンを効率的に抽出する製法を確立したこと、およびノビレチンにメラニン生成抑制効果があることについて、ご説明頂きました。続いて、島田邦男先生(琉球ボーテ株式会社)からは、本製法で抽出したノビレチンを利用した化粧品を琉球大の学生と連携しながら開発したことについてご紹介頂きました。大学での研究シーズをもとに、地域・産学連携を通じて商品販売まで進めた実例として興味深いご講演でした。
     
  • 望月智代先生(沖縄県工業技術センター)からは、沖縄で販売されている「沖縄そば」および「カレー」について、県外・海外で販売される「そば」および「カレー」の製品サンプル群と主成分分析や官能評価に基づいた比較を行うことを通じて、地域における志向性のマップ化を行った結果と考察について報告頂きました。本解析結果を参考に、沖縄食品を海外展開するための改良や、新たな商品開発のアイデアに活用できる可能性について語って頂きました。
     
  • 稲福直先生(株式会社カタリスト琉球)からは、シークヮーサー由来のヘスペリジンに着目したサプリメントの商品開発・マーケティングについての実例を紹介頂きました。沖縄発サプリメントのマーケティングにおいて、製品の機能性を訴求するだけでなく、製造方法が沖縄の伝統的な調理法に模した手法であると謳うなど、製品に情緒面・ストーリー性を訴求することが重要であるとお話し頂きました。
     
  • 神楽田徳夫先生(株式会社KAGURADA)からは、低コスト・省スペースでの水耕栽培システムについて、スマートアグリで先行するオランダ農業での実例や、水耕栽培と水産養殖を組み合わせたアクアポニックス技術などの紹介を交えながら説明頂きました。先生ご本人の水耕栽培にかける情熱があふれる印象的なご講演でした。

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沖縄科学技術大学院大学(OIST)訪問

2019年2月20日、沖縄県恩納村のOISTを訪問し、OISTの特徴や研究環境、研究実例などをご紹介していただくとともに、キャンパス見学をさせていただきました。以下、訪問にて伺った内容を簡単にご報告いたします。

  • OISTの特徴としては、教育・研究がすべて英語で実施され、また、学部を持たずに5年一貫性の博士課程のみを持つことが挙げられます。所属する学生・職員の7割程度が海外から集まっており、真に国際的で高水準な教育・研究を実現している印象を抱きました。また、現在の学生・職員の応募も非常に高倍率であるとのことで、世界的な注目度の高さも感じられました。
     
  • 研究環境としては、語学サポート、居住エリアや家族のための保育施設の設置など、日本だけでなく海外からの入学に対する厚い支援体制が構築されていました。海外から来た学生のほとんどはOISTのキャンパス内にある居住エリアを利用し、日本での生活にも無理なく慣れることができているとのことでした。
     
  • 研究実例としては、沖縄産難消化米の研究開発、沖縄本島に生息するアリの生態研究といった地域性を活かした研究や、タンパク質構造解析の研究開発によりベンチャー企業を設立した実例など、多様な分野の研究例をご紹介いただきました。
     
  • 企業との連携にも積極的な取り組みを展開しており、一部分野では企業からの派遣も受け入れているとのお話も伺いました。
     
  • キャンパス見学では、研究エリアを一通り案内していただき、OISTでの研究環境の一端を実際に見て確認することで大きな刺激を受けました。

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沖縄健康バイオテクノロジー研究開発センター/沖縄バイオ産業振興センター訪問

2019年2月22日、沖縄県うるま市のバイオベンチャー関連施設(沖縄健康バイオテクノロジー研究開発センター/沖縄バイオ産業振興センター)を訪問し、沖縄バイオベンチャーの活動状況やその研究開発体制について学びました。以下、訪問にて伺った内容を簡単にご報告いたします。

  • 今回訪問した施設には、両センター合わせて30社以上ものバイオベンチャー企業が入居しており、沖縄県産素材を用いた健康食品等の研究開発など、沖縄の地域特性を活かした独自性のある研究を行っていました。
     
  • 沖縄健康バイオテクノロジー研究開発センターには、LCMS、DNAシーケンサー、NMRなど多くの分析機器や、凍結乾燥機や殺菌装置などの実証機器が設置され、基礎研究から製造検討まで実施可能な環境が十分に整備されている点が印象的でした。
     
  • 施設見学では、一部実験室内まで拝見させていただくことができ、どのような環境で日々研究を推進しているのかをリアルに体感することができました。
     
  • これらの施設は、一般社団法人トロピカルテクノプラスが管理し、分析機器の操作説明や定期メンテナンスなども実施することで充実した研究環境をサポートしていました。さらに、賃貸工場の提供や物流整備による輸送経費補助など、企業の発展・成長を支援する制度にも工夫が凝らされており、活発な新規事業の立ち上げに繋がる取り組みとして大変参考になりました。

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おわりに

今回のさんわかセミナーや施設見学を通して、沖縄における科学振興政策に関する知見を多分に得るとともに、沖縄の研究開発に携わる多くの方々と交流を深めることができ、非常に充実した訪問であったと感じております。本活動が皆様の今後の研究・事業の一助となり、また新たな連携のきっかけとなれば幸いに存じます。ご多用の中、セミナーのご講演を快諾していただいた講師の先生方、セミナーにご参加いただいた皆様、ならびに施設見学にご対応いただきました皆様に厚く御礼申し上げます。特に岩本竜吾先生(一般社団法人トロピカルテクノプラス、代表理事)には演者の選定とバイオベンチャー関連施設見学の手配に関しまして多大なるご協力をいただきました。改めて御礼を申し上げます。また、琉球大学における会場の確保などには石井貴広先生(琉球大学農学部、准教授)に大変お世話になりました。今後もさんわか活動にご協力・ご参加いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。

会場風景

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概要

タイトル 日本農芸化学会産学官若手交流会さんわか×沖縄バイオベンチャー コラボ企画!
「バイオ産業における産学官の現在と未来in沖縄」
主催 日本農芸化学会 産学官若手交流会(さんわか)
ポスター

さんわか

さんわか第33回セミナー ポスター(PDF)

開催趣旨 今回のさんわかセミナーは「さんわか×沖縄バイオベンチャー」のコラボ企画です。沖縄県はベンチャー企業の開業率がトップであり、新規事業を行いやすい様々な環境が整えられています。今回のセミナーでは、実際に沖縄発のバイオベンチャー企業からご講演いただき、沖縄県の科学振興の状況と今後の展望について学びたいと考えております。また、日本農芸化学会やさんわかの活動を知っていただくため、さんわかメンバーによる研究発表も行います。講演後の技術交流会では、皆様との相互交流を図りたいと考えております。学生や若手研究者も含めた多くの皆さんのご参加をお待ちしています。
日時 2019年2月21日(木)
受付12:30~、セミナー13:00~、技術交流会17:20~
会場 琉球大学 研究者交流施設・50周年記念館
アクセス モノレール首里駅から
タクシー(約20分 約1,500円)
那覇バス 94番線  首里駅琉大快速線 「琉大南口/北口方面」→琉大付属病院前(約17分)
http://www.u-ryukyu.ac.jp/univ_info/general/access/index.html?
講演者 勝山 陽平(さんわか代表・東京大学大学院農学生命科学研究科)
岸野 重信(京都大学大学院農学研究科)
若木 学(農研機構 食品研究部門)
高倉 淳(味の素株式会社)
常田 啓太(サッポロホールディングス株式会社)
岩本 竜吾(一般社団法人トロピカルテクノプラス)
望月 智代(沖縄県工業技術センター)
稲福 直(株式会社カタリスト琉球)
島田 邦男(琉球ボーテ株式会社)
神楽田 徳夫(株式会社KAGURADA)
プログラム

12:30- 受付開始
13:00-15:10 第1部 日本農芸化学会とさんわかの紹介

  • 13:00-
    開会の挨拶・日本農芸化学会とさんわかの活動について
    勝山 陽平(さんわか代表・東京大学大学院農学生命科学研究科)
  • 13:10-
    「腸内細菌に特異な代謝と代謝産物の生理機能」
    岸野 重信(京都大学大学院農学研究科)
  • 13:30-
    「農産物、食品の抗酸化能について」
    若木 学(農研機構 食品研究部門)
  • 13:50-
    「酵素を用いたNε-アシル-リジンの製法開発」
    高倉 淳(味の素株式会社)
  • 14:10-
    「ホップ品質の多角的な解析とその応用」
    常田 啓太(サッポロホールディングス株式会社)

     

14:30- 休憩
14:40-17:00 第2部 沖縄バイオベンチャー企業による講演会

  • 14:40-
    「沖縄における産学官連携の現状と展望」
    岩本 竜吾(一般社団法人トロピカルテクノプラス)
  • 14:55-
    「おいしさの見える化?沖縄そばとカレーの香り?」
    望月 智代(沖縄県工業技術センター)
  • 15:25-
    「『新 沖縄ブランド WELLNESS OKINAWA JAPAN』三拍子戦略をコンセプトにした商品開発」
    稲福 直(株式会社カタリスト琉球)
  • 15:55- 休憩
  • 16:05-
    「シークヮーサー由来のノビレチンによる大学発化粧品の開発」
    島田 邦男(琉球ボーテ株式会社)
  • 16:35-
    「低コスト小規模植物工場システムの開発」
    神楽田 徳夫(株式会社KAGURADA)

     

17:05- 閉会の挨拶
17:20- 技術交流会

参加費 セミナー参加費:無料(当日受付可)
技術交流会参加費:2,000円、学生500円(当日受付可)
定員 80名
(満席となり次第締め切りとなります。当日残席がある場合のみ入場できます。)
問い合わせ先 日本農芸化学会 産学官若手交流会(さんわか)
E-mail (青字「E-mail」の部分をクリックしてください)